※本稿は、中村陽二『インサイト中心の成長戦略 上場企業創業者から学ぶ事業創出の実践論』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
インサイトは少人数しか合意しない
PayPalの共同創業者であり投資家としても実績豊富なピーター・ティールは、著書『Zero to one』(NHK出版、2014年)の中でこのように言っている。
「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」
これは、まさにインサイトのことを指している。
インサイトは、明示的な証拠から論理的に導出することは難しい。過去の経験や他の事例からのアナロジー(類推)をもとに「企業や個人はこのように動く」という背景となる考えと、眼の前の事実を組み合わせて導出する“独自の”解釈がインサイトである。
インサイトは他人に見えない、賛成する人がほとんどいないものだからこそ、新規参入者にとっての成長戦略を形作る土台となる。
インサイトが、客観的な論拠を多く持ち、誰もが同意するものなら、投資に対するリターンは究極的には国債のように低いリターンで安定することになる。
新規事業というのは当たり外れが大きいボラティリティが高い投資である。新規事業を作る文脈では、誰にも理解できて多くのエビデンスから立証可能かつ高いリターンを狙えるインサイトというのは原理的に見つけることは難しい。
この特性をもつインサイトに対して「蓋然性を説明せよ」と要求することは、インサイトを見出すことができる人間のモチベーションを大きく下落させる。
インサイトは目の前にある事実と背景知識・経験を統合した結果発見できるものであるから、同じインサイトを発見できるのは類似知識・経験を持つ者だけである。
特定の会社内だったり、同じ経験を共有する少人数の組織であれば、インサイトを共有することができる。事業立ち上げに少人数が適しているのは、インサイトは大人数では共有できないから、という理由もあるのだ。