CEOを務めることはタフで辛い
特にGoogleの事例では「検索エンジンは儲かる」「Googleの方法なら勝てそうだ」という2点において、証拠がほとんどない中で、創業者のインサイトを信じる必要があった。
もちろん投資家は投資対象が描く戦略を完全に信じる必要はなく、確信度合いに応じた金額を出資すればよい。
創業者の適正は企業の成功に支配的な影響力を持つ。Uberの成長を牽引したトラビス・カラニックはすでにある程度成功した起業家であったが、Uberのアイデアはあっても自分がCEOになることを当初は拒んでいた。
CEOを務めることがどれほどタフなことかをよく理解していたからだろう。結局はCEOに就任させた人物が会社を成長させられず、しぶしぶ自身がCEOになり、会社を成長させていった。
CEOになるのは楽なことではなく、特に一度経験した人物ならその辛さを嫌でも知っているため、このような躊躇があったのだろう。
インサイトは一部領域に対してしか持てない
インサイトを特定の領域で持てるということは、全ての領域でインサイトを持てるということを意味しない。
例えばNvidia CEOであるジェンスン・フアンは現在最も成功した実業家の一人であるが、過去に米国を代表するVCのSequoia capitalから「何かを探したい時に、検索すれば出てくるサイトを作るという事業アイデアに関してどう思うか?」と相談された際に「イエローページのようなものだろう? それは無料なのだから儲かる理由はない」と回答した。
Sequoia capitalも儲かる方法は分からなかったのだが、小規模なら投資出来るということで投資を実行。やがてはこの会社はYahoo!になった。ジェンスン・フアンでさえ、Yahoo!創業者が持っていたインサイトは持てなかったということだ。
2024年、最も話題になった会社の1つがこのジェンスン・フアンがCEOのNvidiaである。ここでNvidiaの顧客インサイトを取り上げよう。
3Dグラフィックス向けの半導体業界は、ムーアの法則に従い長期間に渡り飛躍的な性能上昇を続けるため、翌年は現時点では性能過剰でも顧客は欲しがるようになる。
競合は現時点の顧客ニーズに合わせて製品を開発して提供するため、常に時代遅れな製品を市場に投入するため、実際に顧客が求める製品と市場にある製品の間には常にギャップが生まれる。
自社は常に過剰品質の製品を投入し続けることによって勝ち続けることができる。
参入当時の競争環境は非常に熾烈であり、Nvidiaには200社以上の競合が存在していた。そのためこのようなリスクが高い戦略を取らざるを得なかったが、結果的にこの戦略は大成功した。熾烈な競争環境の中でニーズを先回りし製品を投入し続ける能力がNvidiaの競争力であるということだ。