まずは有利なポジションに立つことが重要

人間の脳は話しながら他のことを考えられない構造ですが、聞いているときは複数のことを考えられます。話しているときの脳はシングルタスクしかできない一方、聞いているときの脳はマルチタスクが可能です。この機能を利用するのです。

相手が説明している間、私は相手の論理の弱点を考え続け、見つけ出そうとしています。どんなに入念な準備をしても、話してみると弱点が露呈されるものです。そのため、聞く時間が長くなればなるほど有利です。相手の論理の弱いところを反撃するための、自分の論理を構築できるからです。

相手の話が終わったら、私は自分が考えていた質問をし続けます。相手の論理の弱いところを執拗しつように掘り下げるのです。相手を守勢の立場に追い込むまで、自分が有利なポジションに立てるまで問い詰めます。

相手より優越したポジションに立てれば、望んだ方向に協議をリードできます。交渉において重要なのは提示する条件ではなく、有利なポジションを、まず確保することです。条件はそのあと提示しても遅くありません。

「殺したのか?」ではなく「なぜあの人を殺したんだ?」と聞く

第三の交渉の秘訣ひけつは、検事が容疑者を尋問するときに使う質問方法から学んだものです。殺人の容疑者を尋問するとき、検事は絶対に「あの人を殺したのか、殺さなかったのか?」とは問い詰めないそうです。そう質問すると、実際に殺人を犯していても「私は殺していません」と答えるからです。

そこで、検事は最初から「なぜあの人を殺したんだ?」と聞きます。すると「わざとじゃない、誤って殺してしまった」などと告白するのだそうです。

それでも白を切るなら、さらに「どんな凶器を使った?」と聞きます。つまり検事の質問は、相手より一歩先を行くのです。検事が一歩進んだ質問をすると、慌てた容疑者は、それに答えることで犯行を認めてしまいます。

写真=iStock.com/South_agency
※写真はイメージです

こうした検事の質問方法は、ビジネスの交渉プロセスにも応用できます。たとえばA社というビジネスパートナーがいるとしましょう。A社は翌年に生産する携帯電話用部品の半導体を、前もって購入しようとしています。A社の購買担当者は、私と交渉を繰り広げることになるでしょう。そのとき私は、次のような戦略を展開します。

A社の購買担当者に対し、来年使用する半導体販売についてではなく、最初から再来年の部品の生産と開発計画について話し始めるのです。