有利に交渉を進めるにはどうしたらいいか。サムスン電子常勤顧問のクォン・オヒョン氏は「交渉において重要なのは、条件を提示する前に有利なポジションに立つこと。これは検事が『殺したのか?』ではなく『なぜ殺した?』と問い詰めるのと同じだ」という――。

※本稿は、クォン・オヒョン『ナメられない組織の作り方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

容疑者取り調べ中に指をさして指摘する検事の男性
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経営の現場では「1+1=2」が通用しない

経営を行うと、たくさんの交渉をすることになります。雇用のための面接も広く見れば交渉のプロセスですし、官庁に認可を申請することや、新たな市場開拓のための営業を行うことも、実はみな交渉に属する行動です。

そのため、経営者には交渉のスキルが必要です。特に初めてビジネスをスタートさせた人、新規産業分野の経営を任された人は、交渉のスキルを必ず身につけなければなりません。

最近、エンジニア出身者が経営を担う例が多く見られます。私もその1人です。各分野に散在していた技術革命が新製品やサービスへと結実していくため、どうしてもそのプロセスをよく理解するエンジニア出身者が経営に乗り出すことになるのでしょう。これは世界的な流れでもあります。

しかし、エンジニア出身CEOの限界は、論理的すぎることです。研究開発のため合理的な思考がつねに求められるエンジニアは、「1+1=2」という形式論理を最重要に考えるよう訓練されています。当然、行動や思考も次第に論理的になっていきます。

そのためエンジニア出身の経営者は形式論理にのみ頼り、事あるごとに論理的かどうかを問う傾向が見られます。

ところがいざ経営を行ってみると、ときにははなから論理が通じないことがあります。もちろんあまりに非合理的であればそれも問題ですが、経営現場はつねに理性と感情が出会う交差点であることを忘れないでください。

1+1が2ではなく3になるときもあり、再び1になってしまうこともあるのです。特に取引先と交渉するときは、1+1=2という形式論理が通じないと心得ておきましょう。