「心理的ウェルビーイング」を生み出す6つの力
健康社会学者の観点から言えば、実はこの「半径3メートル」の「ゆるいつながり」、これこそが、今話題の「ウェルビーイング」。ウェルビーイングは一般的に「幸福感」や「ハピネス」という言葉に置き換えられますが、私がみなさんに伝えたいのは、「危機や不安に遭遇したときにこそ高められる人間のポジティブな思考」の大切さ。これを、「心理的ウェルビーイング」といいます。心理学者のリフが提唱した概念です。
心理的ウェルビーイングは、幸福は「多次元で構成される」と考えます。具体的には、次の6つの思考ではかります。
②人格的成長──自分の可能性を信じ、一歩踏み出す
③自律性──自分の行動や決断を信じる
④人生における目的──どんな人生を送りたいか? を明確にする
⑤環境制御──どんな環境でも楽しみ、自分のやるべきことを見つける
⑥積極的な他者関係──温かく信頼できる人間関係を築く
これらは、誠実さや勇気、謙虚さや忍耐、学び続ける姿勢といった、いわば人格を作る「心の筋肉」のようなもの。「私」が生きるすべての局面で、「私」を支えているといっても過言ではない力です。
すべての人が「幸せ」になる力を備えている
「幸せ」は、「私」だけで成立するものではありません。どんな人にも「私」を取り巻く環境があり、その環境には例外なく他者が存在します。
私の専門である健康社会学は、人と人を取り巻く環境(生活世界)との相互作用にスポットあて、人の健康(=肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態)を考える学問です。そして、心理的ウェルビーイングは、そんな健康社会学的視点に立つ大切な理論の1つです。
私はこれを「幸せになる力」と呼んでいます。
私たちはつい、「強い結びつきのある人間関係」が大切なのだと考えてしまいがちです。しかし、生き物としての人の幸せは、半径3メートルの世界の「ゆるいつながり」の先にこそ存在します。そして、ゆるいつながりの中にいるとき、仮面の自分を捨てたときにこそ、「私はこうありたい」とか「私はこういう人生を送りたい」と、自分が本当に求めている「何か」に気づくことができる。
幸せの基準は人それぞれですが、幸せになる力はすべての人に宿り、「ゆるいつながり」があれば引き出されます。
社会的動物である私たちは、その長い歴史において、他者と協働することで生き残ってきました。「幸福感」は主観的な感情ですが、その感情は半径3メートルの環境との相互作用で生まれます。仕事のモチベーションや幸福感は「半径3メートルの人間関係」に大きく左右されるのです。