一人当たりのGDPはドイツのほうが上

【水野】コロナ禍によるロックダウンの際、ドイツはフリーランスのアーティストや個人事業主などにも、即座に給付金支給を決定しました。文化芸術に対する考え方が、根本から日本とは違うと痛感しましたが、それも日頃からの人々の「余暇」の過ごし方に、関係しているのでしょうね。

ドイツ文化相のメッセージが、日本でも話題になりました。「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ。特に今は」と言って。

日本では「余暇」=娯楽=遊びとして片づけられがちなのを、人生に必要な心の栄養素として大切に扱う姿勢を内外に示したのは、さすが芸術大国だと感心しました。

【古川】また日本の場合、非常に残念なことに、そんなに過労死寸前まで働き続けているのに、労働生産性はドイツより低いのが現実です。

【水野】GDPを国別に見ると、日本はドイツより上です。しかし、日本とドイツでは人口がだいぶ違いますからね。一人当たりのGDPに換算すると、ドイツのほうが日本よりGDPは上なんです。

つまり、ドイツ人は日本より働く時間は短いのに、得るものは多く、日本人は命を削って働いているのにそれに見合った実りを得ていない、ということになります。

【図表1】IMF統計に基づく名目ベースのGDP〈国内総生産〉総額。米ドルへの換算は各年の平均為替レートベース(画像=『正義の政治経済学』)

命を削って働くのは、「勤勉ではなく自己犠牲」

【古川】日本人の勤勉さは世界でも有名ですが、命を削ってまで働くのは、〈勤勉〉ではなく〈自己犠牲〉です。その〈自己犠牲〉を無言のうちに要求する社会が、ここ数十年続いてしまっているのは残念な限りです。

水野和夫・古川元久『正義の政治経済学』(朝日新書)

そんな日本でも、それこそ江戸時代などは、午後3時くらいには仕事を切り上げて、寄席やら蛍狩りやら、町民たちも楽しみながら暮らしていたと物の本には書いてあります。

〈暮らし〉と〈仕事〉の一体化、職住一体の働き方は、最近の言葉でいうところの「ワークライフバランス」「リモートワーク」のはしりではないかと思ったりするんですよね。当時は毎年国として貿易黒字を出さなくてはいけないなんてこともなく、必要最低限、衣食住がまかなえればよかったわけですから。

【水野】江戸時代に戻ることはできなくても、ちょっと昔を振り返り、自分たちの生活を見直す価値は十分にあるのではないでしょうか。バリバリ働くのが好きな人もいれば、もっと余裕を持って生活を充実させたい人もいます。いずれにせよ、誰であれ「健康で文化的な最低限度の生活」をできる社会を実現させなくてはいけません。

おそらく、もう十数年経ったら、ニューヨークと東京を行ったり来たりしてバリバリ働いている人は、明治維新になってもちょんまげに刀を差して街を闊歩かっぽしていた人と同じだと見なされるでしょうね。

関連記事
「お金が貯まらない人の玄関先でよく見かける」1億円貯まる人は絶対に置かない"あるもの"
普通の会社員なのに資産1億以上貯めた人が節約より重視する"あること"
「仕事やお金を失ってもやめられない」性欲の強さと関係なく発症する"セックス依存症"の怖さ
「頑張らなくても貯まる」お金持ちになる人とそうでない人の決定的な違い9つ
「国民の8割は65歳を超えても働きたい」なぜそんな統計結果が出るのか