闘病中の妻の看病から救ってくれた看護婦の声がけ
【原田】『吉本興業の約束』に一昨年、2019年に入院していたと書かれていました。
【大﨑】副腎に腫瘍ができていたんです。ずっと手術しなければならないと言われていたのを先送りしていた。それで手術をしたのが、丁度、昨年の騒動の時でした(笑)。ぼくは嫁を亡くしているんです。彼女はがんがいろんなところに転移して、十年ぐらい病院にいました。ぼくも病院に通って、そこから会社に行っていた時期もあります。そのときに思ったのは、お医者さんはもちろんですけれど、看護師さんたちが献身的で明るくてしっかりしている。彼女たちが「大﨑さん、今日も来てるけど仕事行かんでええの」とか「吉本の(当時)社長がこんなところにいたらあかんのちゃうの」とか、何気ない一言、二言を交わすことで、気持ちが明るくなったこともありました。
【原田】人のぬくもりも医療の一つだと思うんです。AI(人工知能)は全てを支配するって言う人がいます。医者の技術もAIにとって代わられる可能性もあるでしょう。でも、看護師が背中に手を当ててくれるだけで、痛みが消えることがある。その部分は絶対にAIにはできない。
お笑いは“虚業”なのか
【大﨑】ぼくたちの仕事って、“実業”に対する“虚業”とされていた時期がありました。確かに、ぼくたちはお米を作るわけでも、鉄を叩いたりするわけでもなくて、いわば世の中にいらないことをしているわけです。でもこんな話もあります。炭鉱でみんながチームになって穴を掘っていた。みんなが顔を真っ黒にして汗だくになってやっているのに、一人だけおどけてみんなを笑わして、仕事しないのがいた。それを見た監督が、仕事していないからとクビにした。すると、チーム全体の効率ががくんと落ちた。お笑いって、そういう役割があると思うんです。
【原田】笑いや癒しって、医療の現場でも治癒力を上げる効果があると言われています。その他、患者さんがその医者を信じられるかどうかって、人間力みたいなものが関わってくる。でも、その部分はなかなか伝わりにくい。もし、とりだい病院が、癒しの力が強いとか主張したら、何を言っているんだって話になる(笑)。
【大﨑】そんなこと言うてるんだったら技術を磨けと(笑)。
【原田】ぼく自身、若い頃は、癒しなんていうのは技術が足りない分を補っているんだと思っていました。でも、その部分がなかったら、本当の治療にならないのではないかと。
【大﨑】割り切れない部分、曖昧な部分の良さっていうのもあるとぼくは思うんです。実は吉本って、定年なくしたんです。
【原田】ええっ、定年なくしたんですか?
【大﨑】ぼくにしても、吉本辞めて、そばを打つとか、カメラ提げて朝日撮るとかっていう気になれない。3、4年前から、邪魔しないから定年なしにできないかって、人事に相談していたんです。だって世の中が人生100年時代って言うようになりました。会社もそれに対応しなければならない。歌手とか役者っていうのは売れるピークがあって、何年、あるいは何十年で終わっていく。でもお笑いって、西川きよしさんだろうが、桂文枝さんであろうが、みんな現役。中学や高校出てから死ぬまで芸人なんです。年を取ってくると、家族がいたとしても、嫁さんと仲が悪いとか、離婚したとか、いろいろと出て来るじゃないですか。かといって、じゃあ、さよならってできない。
【原田】芸人って破天荒な私生活の人が多そうですし……。
【大﨑】そうなんです(笑)。芸人は年取っていくのに、社員だけが若いというのでは対応できない。(年配の芸人を扱う)ノウハウの蓄積ってあるじゃないですか。吉本は年齢も幅広いし、アメリカ人、中国人、インドネシア人などいろんな人がいる。
【原田】曖昧で多様性があるのが吉本の強みかもしれません。
【大﨑】少し前、吉本が芸人と契約書を結んでいないってえらく叩かれました。でも曖昧にしておいた方がいいところもあるんです。契約がないからこそ、柔軟に対応できるという面もあるんです。