あらゆる情報には「売る側の思惑」が含まれている

それでも店舗側は、客の目を引くような販促物をつくったり、陳列を工夫したりと、来店した客を何とかして振り向かせようとしている。しかし、それはなかなかうまくいかない。買うものが決まっている客は、一直線に売り場に向かうだけだからだ。

そうなると、売る側がどれだけ広告や宣伝に投資をしても、昔ほどの効果は期待できないだろう。客によってはそんなものは雑音に過ぎない。テレビCMで人気芸能人を起用しても、生活者はイケてないものは買わない。

結局はネットのレビューや、SNSの口コミのほうが、購入する際の重要な判断材料となっているのである。

「客が店に来る前に、すでに何を買うかは決まっている」というこの考え方は、グーグルが提唱しているマーケティング理論で、ZMOT(=Zero Moment Of Truth)という。「客が店に来る」というファーストアクションの前、「ゼロ」の段階で買うものが決まっていることから、こう呼ばれている。

では、売る側にとって勝負の場はどこにあるか。

それこそが、私たちが提唱しているデジタルシェルフ(=デジタルの棚。たとえばショッピングサイトの商品一覧など)だ。デジタルシェルフの「いい場所」に商品があることが大前提で、商品に気づいてくれた生活者に対して、商品の魅力をどれだけ伝えられるか。そこで勝負が決まるといえる。

「検索したら上位に出てくる」「レビューの評価が高い」「ほかのユーザーによく買われている」「インフルエンサーが紹介している」といったそうしたデジタルシェルフ上での優位性を確保しておかないと、ZMOT時代には勝てないのだ。

これを生活者目線で考えれば、私たちが触れるあらゆる情報には、「売る側の思惑」が入り込んできているということは押さえておきたいところだ。

アマゾンや楽天が強い理由

Amazonや楽天といった老舗のECサイトは、このデジタルシェルフ時代にもトップ企業として君臨し続けている。SNSの隆盛に加え、クラウドファンディングやメルカリといったサービスが登場してからも、サイト自体に大きな仕様変更があったわけではないのに、なぜデジタルシェルフ時代にも強さを発揮できているのか。

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その理由は、「初めての買い物でも失敗しにくい仕組みがあること」だ。

私たちはネットで買い物をするときに、「この買い物をして失敗しないか」ということを慎重に考えている。初めて買う商品、初めて使うECサイトでは、なおさらそうだ。Amazonと楽天には、この初めての買い物でも失敗しにくい仕組みがすでに備わっている。

その仕組みというのは、レビューの点数や口コミだ。最初にレビューを入念に読み込んでいけば、大きな失敗はない。いわゆる「フェイクレビュー」のような、出店している企業が意図的にレビューを増やす行為は排除される仕組みも整えられ、レビューの信頼性は高まっている。

スマートフォンに充電するためにモバイルバッテリーを注文するとしよう。実際の商品説明通りのパフォーマンスがあるかどうかは、使ってみるまではわからない。実際の充電量・充電速度が商品説明よりも劣っているかもしれないし、耐久性も低いかもしれない。

一定の確率で、不良品を掴まされることもありうる。あるいは、梱包が雑だったり、注文しても発送までに時間がかかったりということも、買い物をする側からすれば懸念材料だ。

そうした買い物の失敗を防いでくれる情報が、レビューだ。