困っていることは分かっていても、依頼を断った理由
世間とずれた物差しのままツイッターでうっかり発言してしまう、それも危機の時に発信してしまうというのは、非常に良くない。答えなくていいことや、自分が答えるべきでないことには答えないという一線を守ることも大事です。もうひとつ付け加えると、ツイッターはあくまで世の中の一部であって、世の中全体ではありません。「ツイッターの中ですべてをこなそうとするのは無理だ」という割り切りも必要です。
僕は一物理学者として、政治家や官僚から質問があった際に、答えられる内容ならば答えるけれど、自分からコンタクトはとらないという姿勢を貫いていました。ただ、本当に自分にしかできないこと、やるべきことがあるときだけはやると決めていました。
例えば、東大の総長室から「ツイッターをやるな」という意向が伝えられた前後に、首相官邸の広報チームで国外メディアを担当しているスタッフから電話があり、外国の特派員相手の会見を手伝ってほしいと頼まれました。その依頼を、僕は断っています。彼らが困っていることは分かったんです。
あれだけの大事故が起こっている状況で、事態が分かっていて、専門家でない人に対しても英語で説明ができて、しかもマスコミも相手にできるような人は限られていたのでしょう。でも、人助けのつもりで一度でも手伝って、中に入ってしまったら、自分で生のデータをインプットする時間がとれなくなってしまいます。
発信を続けられたのは「データ」を見ていたから
僕が発信をし続けられたのは、相当の時間をかけて自分自身でリサーチをしていたからです。「あのデータはどうなっている」「原子炉内の温度はどうなっている」「あそこの放射線量はどうなっている」「プルーム(放射性物質を含んだ気流)はどこを通過したのか」といったデータを、公表されているものは全部、可能な限り自分で見ていた。それから、グラフや地図にまとめたものをツイートする作業に入ります。これは科学者の仕事です。
しかし、もしも官邸に入ってしまったら、自分自身で生のデータを見る時間はとれなくなり、人から上がってくるペーパーをもとに応答するだけになってしまいます。それは科学者の仕事ではありません。
他には、同じ時期に、当時文科副大臣だった鈴木寛さんから、彼の友人である同僚経由で「東大の物理の方々の話を聞きたい、とにかく状況が知りたい」と副大臣室に呼ばれたことがありました。