ファーストレディは“ドクター”・バイデン
「ファーストレディは、夫が大統領になったというだけで、それぞれがひとりの独立した女性。全員が異なるタイプであって当然だし、好き嫌いは特にない」というフェミニスト的な回答に感心していたのだが、「でも、医者でもないのにドクターの称号を使うのってどうかと思う。しかも名前も知られていないコミュニティ・カレッジで取ったものでしょ」と、ジョー・バイデン新大統領(民主党)の妻であるジルを批判することは忘れなかった。
日本ではドクター(Dr.)は「医師」のみが使う印象が強いが、アメリカでは心理学のPh.Dなど博士号取得者が使うことはよくある。また、大学教授の大部分は博士号を取得しており、お互いへの敬意を表して相手の名前を呼ぶときに「ミスター」や「ミセス」ではなく、「ドクター」を使うことが多い。
デラウェア大学(半官半民の研究大学)で教育博士号(Ed.D)を取得し、コミュニティ・カレッジの教授をしているジル・バイデンは、博士号を取得した2007年からミセス・バイデンではなく、ドクター・バイデンという呼称を使っている。
いまごろになって義母がこんな批判をするようになったのは、12月にウォール・ストリート・ジャーナルに掲載されたOp-ed(オピニオン記事)のせいだろう。
揶揄したコラムに集まった批判
「マダム・ファーストレディ ― ミセス・バイデン ― ジル ― おじょうちゃん(kiddo):ちっぽけなことに感じるかもしれないが決して取るに足りないことではないことについてアドバイスをしてあげよう」で始まるコラムを書いたジョーゼフ・エプスタインは、かつて大学で文章創作を教えた執筆家で、これまでにも女性蔑視や同性愛差別の文章を書いて物議を醸したことがある。エプスタインは、これに続けて「賢者(男)がかつて、赤ん坊を取り上げないかぎり誰として『ドクター』を自称するべきではないと言った。考えてみなさい、ドクター・ジル。そして、ドクターの称号を即刻やめなさい」と書いた。その後には「私は博士号なしでノースウエスタン大学で約30年教えた」「私は名誉博士号を持っていて、大学で教えているときに特に『ドクター・エプスタイン』と呼ばれることがあった」といった自慢と、著名人が受け取る名誉学位に対する揶揄が続く。
この記事は多くの批判を浴び、エプスタインが2002年まで非常勤客員講師を務めたノースウエスタン大学は即座に「彼は2003年からここで教えていない」「彼の女性蔑視的な見解には強く反対する」という声明を出した。彼が教えた英文学部によると、エプスタインは年に1つか2つの創作文講座を教えただけだという。
Kiddoは、大人が子供にむかって使う「おい、おまえ」といった呼称だ。名誉博士号を受け取って非常勤客員講師をしただけの男性が、博士号を持ってフルタイムで教授をする女性に向かって使うのは、女性蔑視の侮辱以外のなにものでもない。悲しいのは、義母のように、女性ですら真相を見極めようとせずに女友達から聞いた噂を鵜呑みにしてしまうことだ。