入院日数のむやみな延長は患者にもデメリットがある

では、患者にとってはどうなのでしょうか。入院日数の不要な延長化は患者にとってQOL(生活の質)の点でデメリットです。働く世代ですと就労や子育て機会の損失になります。高齢者にとっては行動範囲が病室の中に制限されると、動かないことによる身体能力のADL(日常生活動作)の大幅な低下や、精神状態に悪影響をもたらして「廃用症候群」の発症リスクが高まります。1週間、あまり動かずベッドで過ごす状態を続けると、10~15%程度の筋力低下、さらに、気分的な落ち込みが顕著に現れてうつ状態になったり、やる気が減退したりと精神的な機能低下が見られます。

渡辺さちこ、アキよしかわ『医療崩壊の真実』(エムディエヌコ-ポレ-ション)

また、天井や壁が白塗りの無機質な病室での大きな「環境変化」により、せんもうといって認知症に似た混乱や意識障害発症のリスクも懸念されるのです。

さらに、コロナウイルスに限らず、病院での長期滞在は院内感染リスクをより高める結果となります。このように入院日数の不要な延長化は患者、特に高齢者にとって何一つ良い事はなく、医療の質を下げる結果となるのです。

「医療の価値=医療の質÷コスト(医療費)」という概念があります。「医療の質」を維持・向上しながら、限られた医療資源や財源を最大限に活用するという考え方で、この「医療の価値」を上げることが国民そして医療経済にとって重要なのです。「医療の価値」を上げるには分子の「医療の質」を維持・向上し、分母の「コスト(医療費)」を下げる努力が必要となります。

不要な病院の滞在について「医療の価値」の軸を用いると、「医療の質」を下げ「コスト」を増大させるため、「医療の価値」を下げる結果といえます。

「医療の価値」は私たちが病院の経営コンサルティングをする際にも用いている価値軸です。

入院日数の延長が医療費を逼迫させている

ここまで、日本の病床数の潤沢さが「病院」と「患者」にとってどうなのかを考えてきました。では医療費に与える影響はどうでしょうか。

日本の医療費は年々上昇し、それこそ逼迫しています。2018年における日本の保健医療支出が対GDP(国内総生産)に占める割合は10.9%でOECD加盟国36カ国中6位でした。しかし、各国共通の統計として、保健医療支出の治療費に加え予防、介護、市販薬などを含み、健康に関するOECD各国共通の費用統計体系支出として捉えた包括的な「健康支出」で推計すると、2012年で日本は対GDP比11.2%となり、米国(2013年16.4%)に次ぐ世界第2位であると試算されています(西沢和彦著『医療保険制度の再構築』(慶應義塾大学出版会)参照)。

医療費全体の4割は「入院料」つまり入院に対する報酬で入院滞在日数に比例します。病床を埋めるために在院日数を長期化し、その報酬が医療費として支払われていたとすると、それは医療資源配分として是正する必要があるでしょう。これには、病床数の適正化に加え、必要以上に在院日数を延長しなくても病院経営が成り立つような診療報酬制度の仕組みが必要と考えられます。

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