ベッドを埋めなければ病院経営が成り立たない

ではなぜ日本ではこんなに在院日数が長いのでしょうか。それは、空床があれば埋める、そうでなければ病院経営が成り立たない、という病院にとって“切実な事情”が背景にあるからです。多すぎる急性期病床を抱えた病院経営者は、「病院の存続」をかけて、経営のために“在院日数を適正化”する必要があるのです。待ち患者の行列が望める病院は問題ありません。しかし地域の医療ニーズを超え、過剰な急性期病床をかかえる病院が病床を埋める手段は、在院日数のコントロールなのです。

“Built beds is filled beds is billed beds”という表現があります。“作られた病床は、患者で埋め、そうすれば報酬を請求できる”と少々皮肉った意味です。しかし日本ではそれが現実的に起きていないとはいえないのです。

図表5は、都道府県別の入院医療費と病床数との関係を示したものです。

入院医療費と病床数の関係
出所=『医療崩壊の真実

財務省が公表したもので、横軸に「10万人当たりの病床数(全病床)」、縦軸に「1人当たり入院医療費(年齢調整後)」の関係を表しています。1人当たり入院医療費は、都道府県間で比較ができるように年齢構成が調整されています。

「病床数が多いほど入院医療費が高い」という事実が示すこと

結果は衝撃的です。都道府県別「病床数」と「入院医療費」の関係における決定係数R2=0.6961と高い相関がみられたのです。10万人当たりの病床数は最多が高知県(2522床)、最小が神奈川県(810床)と3.1倍もあります。高知県民が神奈川県民より3倍病気にかかりやすい県民性であるとは考えにくいでしょう。1人当たり入院医療費は最大が高知県(34万円)、最小が静岡県(19万円)の1.8倍でした。こちらも高知県民が静岡県民より1.8倍重篤な病気にかかるとも考えにくいです。

この「病床数」と「入院医療費」の相関をみると、まさに“Built beds is filled beds is billed beds”。ちなみに日本で人口当たり最も病床が少ない神奈川県でも、OECD先進国の1.7倍強の病床があります。

ここまでくると、「世界一病床が充実している国ニッポン」の実態がなんとなく見えてくるのではないでしょうか。日本は、急性期病床が異様なほどに“充実”しているという裏に、実は「世界一入院日数の長い国」であり、「病院で必要以上に長期滞在することは医療費を押し上げている」可能性があるという日本医療のもうひとつの顔が見えてくるのです。