つまり、ステップファミリーを、両親とその子どもから成る単純な核家族と「同じ」ものと見る視線が日本社会全体に蔓延まんえんしているのです。

リスク要因だけを周知すれば虐待の深刻化につながる

その一方で、厚生労働省のウェブサイト上で公開されている『子ども虐待対応の手引き』の第2章「発生予防」には、虐待が発生しうる「リスキーな家庭環境」として他の要因とともに「子ども連れの再婚家庭」があげられています。冒頭では、ステップファミリーであること自体が虐待のリスク要因ではないと書きましたが、国の虐待防止政策の方針を示すこの手引きでは、リスク要因として明示されてしまっています。

ステップファミリーであることがなぜ、どのようにして虐待につながるか(つながらないか)の理解がともなわなければ、マニュアル上でリスク要因だと示しても虐待を予防する効果が期待できません。しかし、予防や支援の方法は厚労省の『子ども虐待対応の手引き』には書かれていません。単に、このような家族は危険だから警戒せよと言っているのと同じです。

予防や支援が不可能なまま、リスク要因として社会に周知することは、むしろ虐待の深刻化につながる恐れがあります。虐待リスクが高いかのようなマイナスイメージ、否定的な先入観が社会に広まったら、当事者は「ステップファミリー」であることを周囲に隠そうとするでしょう。

虚構に基づく家族を目指す危うさ

こう考えてくると、結愛ちゃんの継父の「親になろうとしてごめんなさい」という謝罪の言葉は、虚構に基づく家族を目指す危うさを告発する言葉のようにも聞こえてきます。すでに述べたことと重なりますが、継親を唯一の父/母とみなす「常識」が浸透した社会全体がステップファミリーを虚構に基づく家族へと導いている側面があります。

そして、これこそが虐待のリスクを生む社会的な背景要因です。この方向に進むことを避けさえすれば、ステップファミリーにもそのようなリスクは生じにくいことを再度強調しておきます。

私たちは、原因を血縁がないことに求めがちです。そして、継親子という「血縁のない親子」の存在自体が「問題」であるかのように考えがちです。『ステップファミリー 子どもから見た離婚・再婚』(KADOKAWA)の第一章後半では、千葉県野田市で二〇一九年一月に起きた血縁の父親による女児虐待死事件との比較から、さらにこの点を検討しています。

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