31歳のときお酒を飲み過ぎ、自分の加齢を痛感した

「なんとなく流行っているな、と思い『メンズメイク』で検索して出てきたのがりゅうちぇるさんの動画でした。メイクの上手さや話の上手さがずば抜けていたし、何より楽しそうだったので、自分でもやってみたくなったんです」

そう言いながら、鎌塚さんは化粧ポーチとして使っている透明なペンケースを取り出した。化粧水に唇の保湿クリーム、毛穴を隠すための透明な化粧下地、皮脂を抑えるパウダー。男性用もあれば、男女兼用もある。アイブロウは女性向けのものを愛用している。一つ一つのアイテムを楽しそうに解説する鎌塚さんだが、「もともとコスメ好きだったわけではないんです」と断りを入れる。

撮影=甲斐博和
鎌塚さんのコスメ。平日はマットな質感の化粧下地を、休日はツヤ感のあるものを使い分けている。

「31歳のときにお酒を飲み過ぎて病院に運ばれ、『もう20代じゃないんだな』と己の加齢を痛感しました。それ以来、心身ともに良いコンディションを保つため、自分を意識的にケアすることを心がけました。例えば、タバコをやめてお酒を減らしたり、ボクシングジムに通ってみたり。そうしたら、明らかに体調がいいんですよね。それ以来、自分をご機嫌に保つための行動を『セルフケア』と呼び、靴を磨いたり花を飾ったりすることを楽しむようになりました。メイクも『セルフケア』の一環です」

メイク専門店に行ったのに何も買わずに帰ってきた

鎌塚さんが初めて買った商品は、ピンク色のパッケージの日焼け止めだ。パール成分も配合されており、日焼け止め効果だけでなく、肌を明るくする効果もある。

「仕事で外回りも多いので使い始めたのですが、肌の色が明らかにトーンアップして。『あ、俺の肌ってくすんでたんだ』とそこで初めて気づいたんです」

日焼け止めを皮切りに、スキンケア用品や化粧下地、アイシャドウと月5千円程かけて少しずつ揃えていった。いまでは、平日と休日でメイクのニュアンスを変えるほどにハマっているという。

そんな鎌塚さんだが、最初はメイク専門店に入れなかったそうだ。勇気を出して初めて原宿のメイク専門店に足を踏み入れた日も、店内には完璧に化粧した女性か、韓国アイドルのような化粧慣れした若い男性しかおらず、仕事帰りの恰好をしていた鎌塚さんは気おくれして何も買えなかった。

「男性向けコスメのコーナーが設けられているのだから、何も恥ずかしいことなんてなかったはずなんです。でも、手を伸ばすことを自意識が邪魔してしまいました」