誰でも、“メイクするもしないも自由”になればいい

鎌塚さんはメイクをきっかけに、「女性は公共の場でメイクをしなければならない」という同調圧力についても考えるようになったそうだ。

鎌塚さんのリップとバーム
撮影=甲斐博和
鎌塚さんのリップとバーム

「女性はメイクして当たり前、男性はメイクをしないことが当たり前、と現状では性別によって真逆のことを求められていることに気づきました。でも、女性向け美容書などを中心に、“メイクしなくてもいい”という価値観はたしかに広まっているのではないでしょうか。反対に、男性は僕のように“メイクしてもいいじゃん”と思う人が増えている。双方が社会の規範を更新しているという点では、同じところに向かっているような気がします」

最終的には誰でも、“メイクするもしないも自由”になればいいんですけどね、と鎌塚さんははにかみながら微笑んだ。

知り合いに「メイクをしているんだ」と言うと、「女装するの?」と聞かれたこともあるが、それは全くの誤解だ。

「僕にとってメイクはセルフケアの一環なんです。自分のために時間を使うこと。靴磨きや散歩、お茶を飲むことなんかと一緒です。思えば靴を磨いてきれいにすることはメイクに似ているし、趣味の文房具収集も化粧品を集めることと似ています。生きるのって苦しいじゃないですか。ラクになりたいし、楽しいからやっています」

ただのメイク好きな30代サラリーマンかと思いきや、その動機を聞いてジェンダーや多様性、セルフケアにまで思いをはせることになった。「固定観念からの解放」について考えるきっかけとなったメンズメイクは奥の深い世界なのかもしれない。

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