メンズメイクには潜在的需要がある

初めの頃は気恥ずかしさが拭えなかったが、今では「メイクしていることを気づかれてもいいと思っています」と話す。

「そもそもあまり気づかれなかったのですが、気づいた人は好意的に受け入れてくれました。女性はメイクについて教えてくれるし、いらなくなった化粧品もおすそ分けしてくれました。妻に至っては『夫がきれいになるのは嬉しいし、化粧品の話もできて楽しいからどんどんやれ』と言ってくれましたね」

その一方で、男性からは反応が薄かったという。

「僕が執筆しているnoteや美容誌のウェブ連載を通じて、メイクをしていることを知られても、男性に興味を持たれることは比較的少なかったです。彼らのメイクに対するスタンスは、『化粧水だけはつけている』『妻に言われて日焼け止めはつけているけど、ベタベタするんだよね』と戸惑い混じり。関心がないか、スキンケアをしている人も、強い抵抗感はないが、半ば義務のように感じているようです」

男性向けのメイク動画はまだ少なく、周りに訊ねるのも抵抗がある。興味はあるがやり方がわからない、という男性も多い。

「女性からすると意外かもしれませんが、男性同士でもネクタイやシャツなどのファッションチェックは結構するんです。毎日スーツで変わり映えがないので、そのぶん日によって変わる部分はしっかり見てしまうんですよね。身なりを気にする文化は確かにあるので、メンズメイクに潜在的な需要はあるのだと思います」(鎌塚さん)

「ダサピンク現象」ならぬ「ダサグレー現象」とは

そんな鎌塚さんだが、一つ気になることがあるという。それが“ダサグレー現象”だ。“ダサピンク(ダサいピンク)現象”という、「女性ならばピンク色の物が好きだろう」という安易なマーケティングによってピンク色の女性向け商品が多数存在している現象がある。その男性版を鎌塚さんは“ダサグレー現象”と呼んでいる。

「男性向けの化粧品売り場に行くと、全体的にモノクロなんです。商品が黒、グレー、青しかない。多様性が無いんですよね。仕事につけていけるような、機能性を謳った化粧品しかありません。それは『男なら仕事第一でしかるべき』という価値観の影響なのでしょう。でも、僕は24時間仕事をしているわけじゃない。休日に出かける時には化粧をばっちりきめた妻の隣に並んで恥ずかしくないメイクをしたいし、家にいるときはリラックスできるようなスキンケアがしたいんです。自分をご機嫌に保つためにメイクをしているのに、アイテムのデザインが機能性重視だとまるで仕事のようで息が詰まります」