「今は解けない問題」が解けるようになるタイミングを逃すな

しかし、将来ロボットが様々な場面で使われるようになるためには越えなければならない課題の一つだ。パーソナルロボット実現を目指す我々としては、何としてもこの問題は解きたい。

ただ、取っ掛かりがないような難しい問題なので、単に「これを解いて」と言っても解けない。だから、解けそうな部分問題に分解して、難易度も簡単にして、現実的に取り組めるような課題に落とす必要がある。

そういう問題はいくらでもある。機械が自ら新しい“言語”を生み出すというのもその一つだ。人が進化の過程で獲得した言語が、機械にとっては最適ではないかもしれず、機械が新しい最適な言語を生み出すかもしれない。2017年に社内トップクラスの研究者が1年取り組んだが、難しかったので、いったんやめた。

今の技術では難しい、解けそうにない問題は無数にある。まずは、「そういう問題が存在すること」を知っておくことが重要だ。

そこには「これが解けたら、この問題も解ける」といった繫がりがたくさん隠れているからだ。「今は解けない問題」が、環境が変わって「解ける」ようになるタイミングが必ずある。そういうときに必要な人を採用してチームで取り組むことができれば「まずはここから取り掛かろう」と考えることもできる。

「研究者」や「エンジニア」という職種の壁を作らない

そのためにも、解きたい問題についてよく知っている人に話を聞いたり、生産現場や工場、病院などに足を運んで、現場で今何が起きていて、どういう課題を持っているのかを把握することを推奨している。

PFNでは研究者やエンジニアという職種による壁を極力なくして「分業しない」ことを大事にしている。できれば営業も含めて分けたくない。

研究スキルを持った人が実際に現場の人と話をして、技術がその現場に直接正しいかたちで、最短経路で伝わるようにする必要がある。効率だけを考えれば分業したほうがいいかもしれないが、すべてを知っていることで学べることが違ってくるし、現場の人が思いもよらない解法を見つけられないか、技術者だからこそ考えることができる。

研究者、エンジニア、営業、先方の窓口、そして現場担当者、と間を経てしまうと、現場の必要な要求も、技術も正しく伝達することが難しい。

日本企業っぽいジェネラリスト的な考え方でもあるが、技術者が直接お客様と話し、ビジネスもできることで、そのボトルネックを解決できると思っている。

「分業しない」ことについては徹底している。

多くの研究論文はその結論で「この技術は○○の分野に有用だろう」と結んでいる。だが著者自身、この技術が必要な分野の人に読まれて実用化されることをどれだけ真剣に考えているだろうか。

イノベーションは、技術のタネが実際にニーズを持っている人に何らかのかたちで伝わることで初めて実現する。