薄い「ラーニングゾーン」に身を置ける環境を
仕事の難易度を難しすぎず簡単すぎない程度にすることも重要だ。簡単すぎる「コンフォートゾーン」と、難しすぎる「パニックゾーン」の間に、薄い「ラーニングゾーン」がある。
「ラーニングゾーン」は、今よりもちょっと背伸びすればできるタスクだ。ここが一番楽しい。簡単すぎると飽きてしまうし、つまらない。逆に難しすぎて、どう工夫してもなんともならない場合も、それはそれでモチベーションがなくなってしまう。だから難易度としては適度に難しい領域が必要になる。
世の中の問題は、問題設定の仕方次第で難易度が変えられる。研究においても、今の技術だと天才がどう頑張っても100年早いという場合もある。一方、あとちょっと頑張れば3年や5年程度で解けるレベルの問題もある。その見極めが非常に重要だ。
自主性も大事だ。たとえば問題を解く場合でも、「これはこういうふうにやってください」と方法まで指定すると、モチベーションは上がりにくい。「どういう方法で解いてもいいよ」だったら自分で創意工夫できるし、考えられなかったような新しい解法を見つけられるかもしれない。
自主性にも程度がある。ゴールは固定で、手法だけ工夫するレベルもあれば、ゴール自体に自由度を持たせることもある。会社としては、各チームやメンバーに自主性を持ってタスクに取り組んでもらおうとしているので、「何を解くか」ということ自体にモチベーションを持てるかどうかが重要だと考えている。
「何を解くか」については本人やチームが決めるべきものだ。経営陣としては強制もできるが、理想的には、本人から自発的に「これを解きたい」と思って取り組んでもらいたい。
そこはすごく難しいが面白いところでもある。何か決める場合も、可能であれば本人に自分で気づいてもらえる環境をセッティングすることが重要だ。
ロボットの手をどうやって精緻にするか
我々が具体的に取り組んでいる問題について少し紹介しよう。たとえばロボットのハンドの問題は解きたい課題の一つだ。今のロボットのハンドは、人間の手ほど柔軟でもないし汎用的でもない。様々な仕事ができるハンドは存在しない。
人間の手は非常にうまくできている。関節数、センサーの数、それらの協調などが本当にうまくできているのだ。普通に現在の技術で模倣しようとすると、部品数が多くなりすぎて、すぐに壊れてしまう。
ハンドの制御ソフトウェアは、さらにハードルが高い。バキュームで吸引して吸い付けたり、クリッパーで挟むだけなら簡単だが、複雑な指を持った手を使って何かのふたを開けるような作業は非常に難しい。機械学習で解くのも難しいのである。