「愚痴を吐露できる関係性」作りがいちばん重要

ですから、「ディスプレイ部が無理なく働いていくにはどうしたらいいのか」を最大限に配慮して、マニュアル作成を進めていきました。すると、業務工程についての課題を洗い出していくなかで、社員はぽつりぽつりと意見が出してくれるようになりました。中にはほとんど愚痴に近い意見もありましたが、「愚痴を吐露できる関係性」を作っていく過程こそが、このマニュアル作成で最も重要だと考えていました。

工藤正彦『小さな会社の“人と組織を育てる”業務マニュアルのつくり方』(日本実業出版社)

なぜなら、愚痴を吐き出すことで、「自分は仕事中、何をストレスに感じているのか」「そのストレスはどうすれば改善されるのか」と、課題について向き合う時間を持つきっかけになるからです。

また、社員からしてみれば、どんな意見が出ても人事側が肯定的に受け入れることで、「みんなで組織作りに参加している」という実感を持つことができたのだと思います。

——社内の課題にあらためて向き合うことができたのですね。

いざマニュアル作りを始めてみると、同じ仕事をしているはずが手順や使用しているフォーマットなど、細かいところでも個々人によって異なることが発覚し、標準化・共有化にはかなり時間がかかりました。しかし、その過程で新しい知識が身につき、非効率な業務が見直されるなど、目に見えて状況が改善していきました。ディスプレイ部の社員が「マニュアルを作ってよかった」と素直に喜んでいた様子は、今でも鮮明に覚えています。

よい「我流」の技こそ社内共有すべし

——忙しい職場の課題を実際にマニュアルで解決できたわけですね。

私の経験を踏まえると、「忙しい」「時間がない」と、目の前の現状に埋没し、変革を起こすことにちゅうちょしている組織ほど、マニュアルの効果を体験できるかもしれません。

社員の自主性を重んじるからこそ、「細かいところまでは管理しない」「各人にまかせる」としている企業は、中小企業にこそ多いですよね。そういった風土は自由で柔軟に働きやすい反面、「我流」「自分なりの仕事の価値観」に陥りやすく、結果として硬直した、旧態依然とした組織になってしまいがちです。

「我流は時代遅れだから見直せ!」ということではありません。技術やテクニックを磨いてきた腕のいい職人さんからは見習うべき点がたくさんあります。その「我流」の技術やノウハウを共有し、標準化できれば、その価値はより素晴らしいものになります。組織における「我流」の価値を再認識するためにもマニュアル作りは有効といえるでしょう。