一番忙しい部署から導入を始めたわけ

——社内に一定のルールや価値判断の物差しの導入が必要だと感じたのですね。マニュアルを作成するにあたって、まず着手したことを教えてください。

マニュアル作成を始めるにあたって「はじめは最も課題が山積なところから」と決めていました。マニュアル作成は、本来の業務にプラスアルファされる業務です。忙しい部署ほど、「そんな忙しいときに、効果が約束されないことに時間を割く余裕はない」と難色を示すのが当たり前です。しかし、その多忙な部署で「マニュアルによる課題解決」を達成できれば「マニュアル作成→課題解決」のサイクルが、全社的に定着していくのではないかと想定しました。

そこで、当時一番忙しかったディスプレイ部の悩みの解消を目指して、課題を洗い出すところから始めていきました。

ビジネスミーティング
写真=iStock.com/boggy22
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——「ディスプレイ部」というのは意外でした。業務マニュアルというと、人事部や総務部などのイメージがあります。

当社の場合、ディスプレイ部というのは、完成した商品をショップ店頭に並べる際に必要な什器、ポスターなどを制作する部署です。つまり、販売に直接かかわる部分かつ、社内の川下を担う部署です。

お土産屋ショップは、限定品や季節による商品の入れ替わりがとても激しいです。決まった納期のなかで、企画や生産の段階で時間を取られてしまうと、店頭準備を担っているディスプレイ部が、最終調整のしわ寄せをすべて請け負うことになります。そうなると、従業員の「労働時間」で補うしかなく、長時間残業や深夜労働など不健全な勤務態勢が続くという悪循環に陥っていました。

最初はまったく共感を得られなかったが……

——それだけ忙しいと、ディスプレイ部の社員は「マニュアル作成」に難色を示しそうですが……。

もちろん、最初はまったく共感を得られませんでした。ディスプレイ部の上長からも「この忙しいのにマニュアルなんて作っていられるか。いまは人材教育に時間をかけていられない」と、きっぱりと拒絶されました。ディスプレイ部としては今までのやり方を否定されている気分にもなるわけですから、あまりいい気分はしませんよね。