成長企業は「即戦力」になる中途の採用活動に力を入れることが多い。しかし、その結果、人手不足は解消するどころか、むしろ深刻化してしまうことがある。なぜなのか。人材コンサルタントの工藤正彦氏は「マニュアルがなく、業務が属人化していることが多い。『東京ばな奈』などの土産菓子をつくるグレープストーンでの改善事例を紹介したい」という――。

※本稿は、工藤正彦『小さな会社の“人と組織を育てる”業務マニュアルのつくり方』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

オフィスの机の上にマニュアル
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属人化した仕事の知恵を「企業風土」にするために

「東京ばな奈」などヒット商品を生み出し、急成長した株式会社グレープストーン。企業の成長スピードに社員の育成が追いつけなくなった結果、「即戦力」として中途の採用活動に力を入れ始めました。しかし、「即戦力」で雇った中途採用の人材は、助っ人外国人のようなもので、ミッションを終えたらすぐに転職してしまうことも多く、なかなか「企業風土」が醸成されないという課題を抱えていました。

——「企業の風土づくり」として、マニュアル作成という方法が挙がったきっかけを教えてください。

新卒を採用せずに中途採用の人材のみで業務を行っていると、これまでの経験や能力によってどうしても仕事の仕方にも差が出るので、いつの間にか業務が属人化してしまいがちです。なので、当時は職歴や経歴が異なると、社内で使われる用語すら統一されていない状態でした。

社内用語の統一は、一見そこまで重要に思えないかもしれませんが、こういった小さなことから、組織間、個人間のコミュニケーションにギャップが生まれていく。それがクレームにつながり、結果としてお客様に迷惑がかかる――「このままだと会社が崩壊してしまう!」と危機感を覚えたことがきっかけです。

最初は若手教育プログラムの一環として

——「マニュアルを作ろう」という発想は、武田さんの前職経験が影響していると聞きました。

前職では大手チェーンストアの管理部門にいました。そこでは、あらゆるものがマニュアル化されており、社員やパートはマニュアルを読み込むだけで、一定のレベルを担保することができていたのです。その経験から、属人的要素を標準化し、企業風土を統一するにはマニュアルが効果的だということはわかっていました。

当時の私が人事部採用担当として若手の研修教育プログラムを作成していたこともあり、その一環として社内の「業務マニュアルの作成」に着手したのです。