熱発者の受け入れは、それ以外の患者の受診控えを促進する

そしてなにより重要なのは、その政策転換、政府の「COVID-19は季節性インフルエンザと同等の感染症」との認識を、どれだけの国民が納得して許容できるかだ。

ネットを見ても、じっさい診察室で患者さんと話をしていても、COVID-19を「ちょっとタチの悪いカゼ」程度にしか考えていない楽観的な人から、「罹ってしまうとアッという間に死んでしまうかもしれないし、仮に命が助かったとしても後遺症で長期に悩まされる深刻な感染症」と捉えて、心配のあまり一日中あらゆる情報源に当たっているという人までおり、一人ひとりの認識はじつに多種多様であるということを実感する。

テレビでは連日“感染者数”を報じ続けており、街中ではほとんどの人たちが炎天下でもマスクをしている。政府から「インフルエンザと同等」とのメッセージがいきなり発信されても、すぐ認識を改められる人など、ほとんどいないのではなかろうか。

政府が「COVID-19は季節性インフルエンザと同等の感染症」との認識を示し、冬の到来とともに熱発者が急増、検査体制も充実して、あらゆる街の診療所でインフルエンザとCOVID-19の検査が可能となれば、診療所の待合室は、例年どおり熱発者で溢れかえることになる。そうなれば、今までCOVID-19検査を受けたくても受けられず“たらい回し”となっていた人や熱発者のアクセスは担保されることにはなるだろう。

しかし冒頭にも述べたように「医療機関でコロナにうつるのが怖いから受診したくない」という人はいる。PCR検査やCOVID-19患者さんの診療を積極的に行っている診療所へは「できれば行きたくない」という声も聞く。これらの院内感染を恐れて受診控えをしている人たちが、インフルエンザ流行期以降に、なおさら医療機関に寄りつかなくなることは火を見るよりも明らかだ。

あらゆる診療所が熱発者を受け入れることになれば、熱発者のアクセスが担保される一方で、感染を恐れる人のアクセスが制限されてしまうのだ。

インフルエンザ流行前に万全の対策を

COVID-19の診療が重要であることは間違いない。だがCOVID-19を恐れるあまりに定期受診を控えることによって、慢性疾患を悪化させてしまう患者さんを増やしてはならない。熱発者が“たらい回し”となって断られ続けることも問題だが、熱発者が受診する医療機関にかかることを心配する患者さんの医療も守らねばならない。

これらの患者さんの健康状態と提供する医療の質を損なわないためには、いったいどうすれば良いだろうか。インフルエンザ流行前に万全の対策をとっておくことが喫緊だ。

インターネットを使った「遠隔診療」も選択肢の一つにはなり得るかもしれない。しかしそれにも限界はある。これらのツールを扱える患者さんばかりではないし、状態が安定している患者さんばかりとは限らないからだ。音声や映像だけで判断し得ない場合は、やはり来院してもらわないわけにはいかない。