いかに防護服を丁寧に脱ぐか

2009年時点と変わっていたのは、とりだい病院が2類感染症を受け入れる第二種感染症指定医療機関となっていたことだ。

2類感染症とは、空気感染のない結核、重症急性呼吸器症候群(SARSコロナウイルスに限る)、鳥インフルエンザ(H5N1)などを指す。

「新型インフルエンザのとき、第二種感染症指定医療機関は(鳥取県)西部地区では済生会境港病院だけでした。そこに当院から医師を派遣するなどの協力をしました。その後、地域の基幹病院として大学と一緒に地域の医療を進めるために、感染症病床を2床整備することになったのです」

感染症病床の整備は2種感染症医療機関の条件である。とりだい病院の感染症病床は、空気感染の可能性のある1類感染症に対応する基準で作られている。いわば過剰品質だ。

病室は病原体が漏れないように気圧を下げる「陰圧室」となっており。個室に繋がる小部屋である「前室」が設置。空調設備には、病原体が飛散しないように特別なフィルターが取り付けられ、床の材質、仕上げなどなども厚生労働省の基準を遵守している。

「人が扉を開けて出入りすることによって空気が動きます。前室があることによって、廊下側との空気の行き来が抑えられる。(感染症病床は)たった2部屋かと思われるかもしれません。ただ、普段は全く使わない病床。そして普通の病床よりも維持費が掛かる。そのため無暗に増やすことはできないのです」

感染症病床は普段使っている病棟と勝手が違う。新型コロナウイルス対策のため、看護師を集めて感染症病床での患者受け入れの訓練を始めた。

「どこになにが置いてあるのか、どこまでが清潔なエリアなのかということを把握しなければなりません。そして全病棟で標準予防策を確認しました。手洗い、消毒といった手指衛生。そして血液、体液、あるいは痰などが曝露する可能性がある処置時の防護服着用。特に重要なのは、いかに防護服を丁寧に脱ぐか。脱ぐときに慌ててしまうと、防護服の表面についているウイルスを自分自身につけてしまう。職員自身の感染のリスクにもなりますし、そのウイルスが手指衛生をすり抜けて他のエリアに広まってしまう可能性もあります」

新型コロナウイルスに感染していることに気がつかず、外来患者が来院する場合もある。外来診察体制の見直し、患者数が増えた場合の対策も練った。検討事項は山積みだった。

「PCR検査」の全ての過程を自動化

山陰一帯で高度医療を提供するとりだい病院の活動を新型コロナウイルスで止めてはならないと千酌はいう。

「新型コロナウイルスに罹患している可能性の高い方を迅速に診断する、病院独自の仕組みを作り上げなければならないという結論でした。検査さえすれば、感染している方にも、感染していない方にも、感染予防に配慮した医療を提供することができる」

新型コロナウイルスの検査には、PCR検査、抗原検査、抗体検査の3種類がある。PCR検査と抗原検査は、身体に感染したウイルスそのものを検出。抗体検査はウイルスに反応して身体が作る物質――抗体を検出する検査である。

撮影=中村治

新型コロナウイルスには前者2つがより有用性が高いとされ、PCR検査の方がより敏感に、そして高精度で病原体を検知する。そのためとりだい病院ではPCR検査に力を入れている。

ただし、PCR検査は、熟練した臨床検査技師に頼る過程が多く、検査数が限られる上に結果が出るまでに時間がかかっていた。とりだい病院では、4月に前処理だけを自動化する拡散抽出機を、8月からは全ての過程を自動化した「全自動PCR機器」を導入して、検査数を増やしている。現時点で一日最大100人の検査が可能だ。