食嗜好の多様性を認めてもいいじゃないか

そもそも「日本全県味巡り」の企画が始まって以来、基本的には取材をした相手への忖度に終始し、初期の頃の「盲信されている通説や権威を斬る!」的な、どこか殺伐とした空気は完全に薄れてしまった。また、名作回と評判の「トンカツ慕情」に代表される「いい話だなぁ~」とじんわり感動させるような情緒もなくなってしまった。

私が述べていることにも反論はあるだろう。だが、ここであえて『美味しんぼ』に異議申し立てをしたのは、とにもかくにも“料理というものは、多様性があるもの”という一点を示したかったからに他ならない。

『美味しんぼ』ファンの視点で斬る細部の違和感

最後に余談として、『美味しんぼ』ファンがきっとモヤモヤしていたり、「そこ突っ込みたかった(笑)」と思っていたりするだろう点を箇条書きにしてみる。

・富井副部長の身体能力が高すぎる。ゴルフをすればバンカーショットがキレイにカップインするし、「キエーッ!」と叫びながら山岡にドロップキックを決めるシーンも頻出する。さらには泥酔した状態で女子大の柔道部員に絡んだ際、唐突に民宿の台所から屋外へ投げ捨てられてもかすり傷程度で済んでいる。

・板前を目指して日本にやってきたジェフが可哀想すぎる。当初は腕の立つアメリカ人板前として登場し、吸い物の味を見極める勝負で大多数の日本人が化学調味料を使ったものを「おいしい」と回答するなか、「味が不自然」と判断するなど活躍。味のわかる良心的なサブキャラとして扱われるのかと思いきや、過激な反捕鯨グループの一員として鯨料理店に乱入したり、材料を明かされないまま鯨料理を食わされて狼狽するバカとして描かれたりした後、ほぼ登場せず。

・「究極のメニュー」作りの後継者として、山岡の魂を引き継ぐはずの飛沢周一がまったく魅力のないキャラに。こいつが出ると話がつまらなくなる。そして、海原雄山と山岡の関係性(雄山が権威として登場し、美食に関する完璧な存在として山岡に立ちはだかる)は、そのまま山岡と飛沢の関係性にスライドしてしまっている。山岡が雄山のように描かれるのはどうもしっくりこない。

・名前付きで描かれる女性キャラクターが、基本的に全員“立派な人物”として扱われすぎている。悪く描かれるのは、バブリーな店に行き横柄な態度を取る女性のように名無しの人のみ。一部、大石警部の姉や二木まり子の叔母など傲慢な女性として登場するキャラもいるが、ほどなく“キップのいいお姉さん”扱いになる。また、山岡は同僚の荒川夫人(旧姓・田端)や三谷夫人(旧姓・花村)から何度もボコボコにされているのだが、その暴力に甘んじている。

繰り返しになるが、私は『美味しんぼ』の熱心な読者であり、上に挙げるような細部の描写を即座に思い出せるくらいには愛読してきたという自負もある。ここで述べてきたことは『美味しんぼ』を愛すればこその提言として捉えていただけるとありがたい。

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