(1)マスク 手洗いとの併用でインフル最大51%減

現在国内では外出時に「マスク必須」という雰囲気だが、健康な人がマスクを着けた場合の予防効果については明らかでない。ウイルスの感染経路は3つ──ウイルスそのものを吸い込む「空気感染」、ウイルスの付いた手で目や口に触れ、粘膜から体内に侵入する「接触感染」、感染者の咳やくしゃみによってウイルスを含むしぶき(飛沫)を吸い込むことで起きる「飛沫感染」がある。はしかや水疱は空気感染もするが、通常は飛沫感染と接触感染が主流になるため、この2つの感染経路を遮断することが重要だ。

マスクをし、かつ手洗いをすればインフルエンザ発症率を51~35%減らせるという報告がある(『米国感染症学会誌』)。またSARSも7つの研究の解析において、手洗いによって感染リスクが低下することがわかっている。子供が手洗いをすることで、呼吸器感染症などの発症率が減少する報告もある。マスクだけにこだわらず、食事前や帰宅時の基本的な手洗いを忘れずに。

また、ウイルスそのものの大きさは0.1マイクロメートルほどで、花粉の100~1000分の1くらいの非常に小さなサイズ。そのため一般的なマスクではほぼ通り抜けてしまう。ただし、鼻水やくしゃみによってウイルスのまわりが水分で覆われたものはサイズが大きくなるため、満員電車のような閉鎖空間で、感染者と非感染者がお互いにマスクをすれば飛沫を防ぐうえでの一定の効果はあるかもしれない。しかし、屋外でこれからの時期にマスクを着用することは、むしろ熱中症が心配である。

(2)水うがい 水道水で1日3回風邪の発症率36%減

たとえウイルスが体内に入っても、上気道の粘膜細胞に吸着して感染症状を引き起こさせないことが肝要であるため、うがいはしたほうがいい。実はうがいは日本独自の習慣で、平安時代に始まったとされる。語源は鵜飼(=鮎漁で鵜に魚をのみ込ませ、あとで吐き出させる漁法)に似ていたからとの説も。欧米諸国では1918年のスペイン風邪が流行したときにうがいを推奨する記事が学術誌に掲載されたが、以降は下火に。しかし最近になり、うがいの科学的根拠が集積されつつある。

18~65歳の約380人の健康なボランティアを「水うがい群」「ヨード液うがい群」「特にうがいをしない群」に振り分け、60日間風邪の発症リスクを検証した研究がある。うがいは1日最低3回、1回およそ20ミリリットルの水またはヨード希釈水で15秒実施し、参加者は鼻水や咳、熱などの14の風邪症状を4段階(なし、軽症、中等症、重症)で毎日評価した。その結果、うがいなし群と比べて、水うがい群は風邪の発症が36%低下。ヨード液うがい群では明らかな差が出なかった。また水うがい群では風邪をひいた場合も気管支症状が軽く済む傾向が見られたのだ。

ヨード液では抗菌・抗ウイルス作用が強く、喉や口腔内の良い菌も殺してしまうのではないかと考えられている。普通の水道水で1日3回のうがいを。

(3)緑茶 含まれるカテキンでインフル発症率87%減

さらに緑茶によるうがい、緑茶を飲む習慣も、感染症発症リスクを低下させる。「緑茶カテキン」を用いたうがいによる効果を研究する静岡県立大学薬学部教授の山田浩氏に話を聞いた。

「老人ホーム入所者を対象に行いました。うがいに緑茶カテキン(市販のペットボトル緑茶の半分のカテキン濃度)を使った群では1.3%(76人中1人)しかインフルエンザを発症しなかったのに対し、使わない群では10%(48人中5人)も発症しました。カテキンの抗菌・抗ウイルス作用が働いたと考えられます。別の研究で小学生約2000人を対象に緑茶の飲用習慣とインフルエンザ発症のアンケート調査をすると、適度な緑茶飲用(一日5杯まで)が発症率を減少させる傾向にありました」

また山田氏らは急性上気道炎(風邪)についても、カテキン57ミリグラムを1日3回摂取すると、発症率が半減することを2019年末に国際科学雑誌『Nutrients』に発表した(図2)。

ただし小学生への調査以外は緑茶そのものでなく、あくまで緑茶主成分のカテキンを抽出した研究。十分な証明に至っていないため「今後研究を継続する予定」(山田氏)という。

とはいえ緑茶に含まれるカテキンには、急性感染症に対して抗ウイルス作用を示す多くの報告がある。細胞実験では緑茶に含まれるカテキンが、ウイルスの増殖を抑制している。緑茶を生活に取り入れるのは感染のリスク低下になるはずだ。