(10)体内時計 リズムがズレると免疫力60%ダウン

私たちの身体機能にはリズムがある。睡眠と覚醒、血圧の高低、筋肉の収縮弛緩、自律神経の切り替えなど、さまざまな形で規則的な周期を繰り返す。

体内時計に詳しい明治大学農学部准教授の中村孝博氏によると「人は全身のほとんどの細胞の中に、時計遺伝子が作り出す“時計”を持ち、24時間周期の概日(サーカディアン)リズムを刻んでいる」という。

「体内時計は体のそれぞれの生理機能が、最も働くべき時刻にピークを迎えるように整えてくれます。例えば、いつもの起床時刻が近くなると血圧を上昇させ、目覚めた直後から活動できるように。午後から夕方にかけても、人がもっとも活動的になることを見越して心拍数や血圧を上げようとします」

時差ボケで免疫力が落ちる

このリズムが乱れると病を発症し、免疫力が低下することがわかっている。マウスの研究で、日常より6時間ずらした活動時間を週に1回、4週間続けた後に、過剰な免疫反応を引き起こす薬剤を投与すると、活動時間をずらさなかったマウスと比べて生存率がおよそ6割低下していたのだ(図5)。

「海外旅行などで日本とは時差のある国へ出かけた場合、いわゆる時差ボケを経験しますよね。現地の環境に合わせようとしても頭がボーッとしてうまく働かない。同じことが体内時計の乱れでも起こり、ホルモン分泌や臓器の働きに影響します。ポリスオフィサー(米国の警官)を対象にした調査でも、7日間の交代勤務によって免疫システムの異常が報告されています」

体内時計は細胞内の10種類以上の時計遺伝子のやりとりで作られる。

中村氏は体内時計をオーケストラにたとえ、「体内時計の司令塔(中枢時計)が指揮者、さまざまな臓器に存在する時計(末梢時計)が楽器演奏者のような感じ」と話す。

中枢時計とそれぞれの末梢時計の足並み(演奏)が乱れると、正しいリズムが刻めなくなる。すると例えばメラトニン(睡眠ホルモン)分泌が抑制されるなど、「正しい夜」が生み出されなくなる。うつ病の発症リスクが高まり、心身の不調を招きやすい。

「外出自粛が長引き、昼間の眠気、夜の熟睡が少なくなっている人が増えています」と大和田氏も言う。

「サーカディアンリズムを保つには交感神経(オン)と副交感神経(オフ)の上手なスイッチ切り替えが必要です。猛烈に働く社員が突然死するのは交感神経が常時過剰に優位になった結果。一方でテレワークでは副交感神経優位の状態が続きやすい。スーツを着るなどの機会も減ってリラックスモードで過ごしてしまう。普段の朝にバシッと出るホルモンが分泌されず、常にグレー状態に……。生活にメリハリがあるほうが免疫力が落ちにくいのです」