上海市内にあるホテルの中華料理店で働き始めたが…

まず16歳の時に中華料理の専門学校に通い、卒業後に上海市内にあるホテルの中華料理店で見習いとして働き始めた。

だが、同じホテルの日本料理店を見学した時に、「キッチンの清潔さが違った」ことから日本料理を学びたいという気持ちが強くなり、勤務先を変更。そして2年後、当時上海で最大規模の日本料理店「燦鳥」に移り、調理技術を身に付けていった。

ワンは現在、「東京和食SUN with AQUA(旧:燦鳥)」で料理長を務めている。これまでの料理人生を振り返ると、2014年に総料理長に就任した「本多淳一氏との出会いが大きかった」と言う。

本多は、農林水産省から日本食普及親善大使に任命されたこともある超一流のシェフだ。ワンは本多から「食材に国境はない」という考えをたたき込まれ、日本料理に中国産の野菜や調味料を積極的に取り入れるようになった。

撮影=Hiroyuki Ishii
ワン選手の調理の様子

おいしい日本料理を求めて、日本人が海外に行く

2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されてから、日本料理は注目度をぐんと高めた。世界の日本料理のレストラン数は、2013年は約5万5000軒だったが、2019年までに3倍近くの約16万軒に増えている。

上海でも日本料理の人気は高い。ワンは、その理由を「他国の料理と比べると居酒屋やラーメンなどいろいろなジャンルの店があり、子供からお年寄りまで誰でも親しめるから」と考えている。

ワンは、23年にもわたって日本料理と真剣に向き合ってきた。そして、日本の食文化についてこう話す。

「日本の食材はとても美しく、これは生産者の努力によるものだと思う。その食材を使用する日本料理もまた美しく、見た目で喜ばせられる点も素晴らしい。食材の一つひとつに意味があると教わった。本当に奥深い」

ワンは「世界王者」という目標を達成したが、それは通過点だという。

「今回、世界一になったが、改めて料理人としての原点に返りたい。師匠とお客さまが、自分が作った日本料理を認めてくれた時に、成長を感じるのでうれしい。これからも、目の前のお客さまにおいしいものを作っていきたい。そして師匠のように、日本と中国の文化交流に貢献し、日本料理の普及や後輩の育成にも挑んでいきたい」

私は今回の取材を通じ、日本料理にここまで情熱を注ぐ中国人がいることに驚いた。「外国人の作る日本料理は、おいしくない」という声を聞いたことがある。だが、それは誤解だ。世界各地に、本気で日本料理を作る外国人がいるのだ。

ワンの料理を食べてみたいと思った読者も多いだろう。おいしい日本料理を求めて、海外に行く。そんな日はもう現実になっている。

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