「教育と医療」への貢献が自分のやるべきテーマ

「永守さんは一代で日本電産を世界シェアトップのモーター会社にした。その次に大学の経営に乗り出したのはなぜですか?」とよく聞かれます。その答えは、私にとって「教育と医療」への貢献が自分のやるべきテーマと考えているからです。世界のどの家庭でも、子どもの教育と医療が一番の悩みであり、多くのお金がかかる問題です。京都先端科学大学にはこれまでに130億円以上を投じています。そもそも私は、長年新卒採用で日本電産を受ける学生に大きな不満があり、「今の大学教育は間違っている」と思っていました。

私たちのようなメーカーは、「顧客が欲しがる製品」を作らなければ商売になりません。お客さまの声を聞く中で時代の先を読み、市場に求められる製品をいちはやく送り出す。そうすることで、日本電産は創業から成長を続けてきました。ところがその間、日本の大学は何十年も採用する側の企業がどのような学生を求めているかに関心を持たず、社会で役立つことを何も学んでいない学生を一方的に送り続けてきたのです。

私どもの会社はモーターが主力商品です。当然、モーターについて学んだ学生が欲しい。ところが日本の大学でモーターを専門的に学べる学部学科はどんどんなくなっています。17年から京都大学で「優しい地球環境を実現する先端電気機器工学」という寄付講座をやっているのも、世界中の全消費電力量の50%以上を占め、日本の産業競争力を支えるモーターに関心を抱く若い人材を育てたいという思いからです。

世界中を走る自動車は近い将来、そのすべてが電気自動車に置き換わっていくでしょう。AIやIoTの進化でロボットやドローンなどの普及もさらに進みます。それなのに心臓部品のモーターの先端技術を学べる場が、この国から消え去りつつあるのです。毎年我が社では数百人の学生を採用しますが、そのうち大学でモーターを学んだことがあるのは1人か2人。仕方ないので社内にモーターカレッジという新卒研修制度を作り、そこでモーターの基礎から半年ほど学ばせていますが、一人前の技術者になるには数年かかるのです。

また偏差値が高い大学の学生を採用して仕事の現場に立たせても、英語がまったく話せない。営業をさせても注文が取れない。理工学部出身なのにモーターの基礎もわからない。それどころか、きちんとした挨拶もできなければ、着席するときの上座と下座すら知らない新卒社員は珍しくないのです。東大や京大のようなブランド大学から採用してもそこまで状況は変わりません。

出身大学とビジネスの結果に相関があるのかと疑問を感じ、00年ごろから採用した新卒社員1人ずつについて、仕事の成果のデータを取ってみました。すると一流大学を出た社員も三流大学の出身者も、10年ほど経つと何も変わらないことがわかりました。それどころか同じ年次の入社でも、三流大学出の社員のほうが活躍していることもよくあったのです。