学生時代の偏差値と関係なく、なぜ社会人になってから差が生まれるのか。それは人間の能力には知能指数を決める「IQ」と、「やる気」を生み出す感情指数の「EQ」の2つがあるからです。学校のテストはIQが高いほうが有利。しかしIQが高くてもEQが低い社員は、仕事のモチベーションが上がらず、営業なら「絶対に注文を取るぞ」といった気迫がありません。

2020年4月に新規で開設された工学部がおかれる京都先端科学大学の京都太秦キャンパス。工学部は英語で授業が行われる。
2020年4月に新規で開設された工学部がおかれる京都先端科学大学の京都太秦キャンパス。工学部は英語で授業が行われる。

私見ですがIQによる能力の差は、どんなに天才的な頭脳の持ち主でも普通の人に比べてせいぜい5倍ほど。ところがEQの高い社員は、やる気のない社員に比べて、仕事で100倍以上の成果を生むことがある。活躍できる社員とそうでない社員を決定づける要因は、EQの差なのだと実感しています。

重要なのは、EQは「後天的に伸ばすことができる」ということ。IQは遺伝的要因がかなり関係するらしいが、EQは教育や環境によって筋肉のように鍛えることが可能です。1973年に日本電産を創業したとき、3人の社員はみな有名大の出身ではありませんでした。資金も商品も知名度もないわれわれは「大企業の倍の時間働く」と決めて、ハードワーキングを続けました。

それから47年が経った現在、日本電産は約1兆5000億円の売り上げを誇る世界一の総合モーター企業に成長し、創業メンバーは大幹部になっています。いまでこそうちの会社にも東大や京大の学生が入社するようになりましたが、創業後しばらくは募集をかけても偏差値の低い大学の学生しか来ませんでした。そうした若者を徹底的に鍛え上げることで、日本電産は成長してきたのです。人間はみんな誰でも大きな潜在能力を持っている。その潜在能力を開花できるかどうかは、EQを伸ばす教育にかかっているのです。

どうして大学の授業はつまらないのか

私が大学経営に乗り出したことが報道されると「企業と大学の経営はまったく別だ。できるわけがない」などと言う人がいました。しかしそれは大きな間違いです。私はこれまで赤字を垂れ流してきた会社をいくつも買収し、そのすべてを黒字にしてきました。大学も企業もすべてはなかにいる人間の意識で変わります。

理事長に就任する前、大学の授業を見学すると、学生たちがみな寝ていました。起きている学生も私語とスマホに夢中で、ほとんど誰も真面目に授業を聴いていない。けしからんと思ったが、実際に私も授業を受けてみると10分で眠くなりました。その先生を呼んで「あなたの授業はなぜあんなに学生が寝ているんだ」と聞くと、「学生のレベルが低いからです」と言ったのです。私は「違う、あなたの授業がつまらないからだ」と答えました。20年前から同じ講義ノートを用いて古い話をし、わかりやすく伝える工夫もせず、三流の授業をしているから学生が寝るのです。