一流大学はなぜ一流なのか。それはそこにいる人間の意識が一流だからです。理事長、学長、教授陣、職員一人一人、食堂のおばさんまで全員が一流なのです。教える先生が三流なら、学生も三流にしか成長しません。そこで私が理事長になってから京都先端科学大学が目指すレベルに相応しい一流の人々を、学長、学部長に招聘しました。工学部の教員は20人の募集に対し600人もの応募がありました。教室や研究施設、レストランなども一流大学にふさわしい環境を整えています。

日本電産 永守重信氏

以前は留年者を出すと学費収入が減るためなるべく卒業させるという方針だったようですがそれも変えさせて、成績が悪い学生はどんどん留年させることにしました。英会話学校のベルリッツと提携して徹底的に「使える英語」を教え、卒業時TOEIC650点以上を目指します。工学部の授業は基本的に英語で行い、最初のうちは英語の授業がわからない学生向けに、同じ内容の授業を日本語でも行います。外国からの留学生も積極的に受け入れ、そのための寮も造り、将来的には工学部では半分、全体の3分の1の学生を外国人にする予定です。

とくに学生の英語を鍛えるのは、あらゆる仕事において「英語ができるかどうか」が成果に直結する時代にすでになっているからです。数年前、私は昔から行きつけだった寿司屋の三代目の若い店主から「客が減って困っている」と聞きました。そこで店主に「英語を勉強しなさい」と伝えたところ、彼はアドバイスに従って英会話学習を始めて、日常会話ができるようになりました。すると「あの寿司屋は英語でやりとりができる」と外国人観光客の間で噂が広まり、たちまち人気店になったのです。

そのおかげで私も予約がなかなか取れなくなってしまいました(笑)。英語はあらゆる仕事に役立つ。日本電産でも英語力は昇進を決める重要な指標です。わが社は世界44カ国で工場、事業所を展開しています。それらの国々の現地スタッフと会話をするときに、共通語となるのは英語しかない。英語力は、これからの社会で運転免許並みに「あって当然」になることは間違いありません。

10年後の未来で求められる学問

改革はまだ始まって2年ですが、大学は大きく変わりました。何より学生たちの意識が変化した。寝ている学生や私語はなくなり、みんな活き活きした目で授業を真剣に聴いています。入学試験の偏差値も2年前に比べて大きく上がり、20年、初めて募集を行った工学部で、東大入試レベルの問題を紛れ込ませたところ、それを解いた学生が5人もいました。19年の入学式の祝辞で、私は「君たちはいいときに入学した。来年だったらこのうち半分は落ちる。再来年受けたら全員落ちている」と述べましたが、実際にそうなりつつあるのです。