順調に育ち、30人で新会社を設立

会社員として、知的財産の守秘義務や兼業の禁止規定に触れる恐れはないのだろうか。福澤に聞いてみた。

「『所属している会社に関係する技術は使わない』『中で使った技術は外に持ち出さない』という二点について、全員と契約書を交わしています。兼業禁止について、会社によってスタンスの違いはありますが、一般的に兼業は対価を得ることが目的ですから、ボランティアのカーティベーターは兼業には該当しません」

事業の熟度が増してくると、ボランティアだけの体制ではそれ以上の進展が難しくなった。そこで2018年7月、カーティベーターの中から約30人が参加し、株式会社として「スカイドライブ」を立ち上げた。2017年にトヨタを離れて独立していた福澤は、カーティベーターの共同代表を兼務しながら、スカイドライブの社長を務めることになった。

中村も2018年4月にトヨタを離れ、母校の研究員の傍ら、カーティベーターの代表を務めている。

こうして現在は、カーティベーターとスカイドライブが併存し、協力しながら空飛ぶクルマの実現を目指している。

100キロで空を飛び、地上を60キロで走る

カーティベーター・スカイドライブモデルの、他社と比べたユニークな点は、ふたつある。

ひとつは、サイズがコンパクトということだ。全長と全幅がいずれも3.6メートル、高さが1.1メートルで、世界最小サイズを目指している。コックピットの長さだけみれば、先行するボロコプターとそう変わらないが、ローター部分で測ると9メートル以上あるボロコプターの半分以下に収まる。ということは、駐車場2台分程度のスペースがあれば離着陸できるようになる。

写真提供=カーティベータ―
カーティベータ―とスカイドライブが開発する「空飛ぶクルマ」の予想図

もうひとつは、他社の多くが飛行専用機を開発しているのに対し、「クルマ」の部分にもこだわっていることだ。4モーターのマルチコプターに、三輪自動車を組み合わせる計画だ。空を飛ぶときのスピードは時速100キロ、クルマとしての走行速度は時速60キロが目標である。

「走行して飛びます。そうすると、ドアtoドアで移動できるのです」

確かに、走れたほうが「空飛ぶクルマ」の名にふさわしい。

日本で先行するカーティベーター・スカイドライブには、NECやパナソニック、大日本印刷、トヨタをはじめ、約100社から、資本提携だけでなく、各種技術や活動場所の提供など、様々な支援が寄せられている。それだけ期待が大きいということだ。

2019年12月には、日本初となる空飛ぶクルマの有人飛行試験を、豊田市の屋内飛行試験場で開始した。伝動装置の制御がうまく機能しない場合や緊急着陸など、様々なケースを想定して、安全性の検証や操作性の確認を進めた。そして2020年4月3日、「有人飛行試験における技術検証第一弾が安全に完了した」と発表した。今後は屋外での飛行試験許可を取得する計画だ。