夜9時過ぎ、懐中電灯を片手に工業団地へ

そこで、この2つのエリアの工業団地から仕事を受注しようと、夜9時過ぎに自分で車を運転して訪れるようになったのです。

昼間ではなくなぜ夜間かというと、夜遅くに仕事をしているということは、つまり残業しているということですから、相当に忙しいだろうと踏んだわけです。こうした工場なら、「忙しい業務を外注することで、従業員には別の新しい仕事をさせることができますよ」と営業をかければ仕事がもらえるのではないかと思ったのです。

工業団地の近辺に到着したら、ゆっくりと走行し、明かりがついている工場を探します。見つけたら少し手前に車を止め、懐中電灯を片手に建物の入り口まで歩いていき、中で作業をしているかどうか確認します。そして、それが確認できたら、入り口の表札を懐中電灯で照らして社名を見てメモするのです。

翌日、図書館に行き、『会社録』でその会社について調べます。まず、業種は何か──装置産業なのか、それとも一般の製造業なのかを見ます。もし、溶鉱炉などを持っている鉄鋼関連の企業なら、炉を止めずに作業を続ける必要がありますから、夜間に作業をするのは特別なことではありません。一方、一般の製造業で夜遅く仕事をしているということは、人手が足りないということです。

これでアプローチ先が選別できますから、早速目星をつけた会社を訪問して、業務請負のセールスをするというわけです。

狙った会社とはすぐに交渉が進んだ

この作戦は、目論見どおりうまくいきました。狙いをつけた会社は急激な増産に対応できずに悩んでいる場合が多く、たいていは門前払いせずにこちらの話を聞いてくれました。

「本当にそんな金額で請け負ってくれるの? 人を集められるの?」
「大丈夫です。お任せください!」

首尾よく交渉が進んで、その日のうちに大まかな受注計画や仮の積算単価を詰め、すぐに体制づくりに動くといったこともありました。

業種で多かったのは、当時増えつつあったプラスチック関連の工場でした。多くは浦安方面にありましたが、洗面器など家庭用のプラスチック製品をつくっている工場や、食器や小物などをプレスして製造する際の材料になるシートを専門につくる工場などさまざまでした。