女性は男性にない強い素因を持っている

それから、閉経後の女性は閉経前の女性に比べると、同じ年齢、体重であれば睡眠時無呼吸症候群になるリスクが3倍高くなるという報告があります。これは、呼吸を促すホルモンでもある黄体ホルモンが、閉経後に激減するからではないかと考えられています。

女性は生涯を通じて体内環境にいろいろな変化が起こります。だからこそ、男性以上にいたわる必要があるというのは間違いありません。

ただ、生物学的には、そういう体内環境の変化に対応できるように、男性にはない強い素因を女性は持っているのかもしれません。睡眠時間が短くなると肥満率や死亡率を増加させることになりますが、アメリカの疫学によると、その傾向が出てくるのは、男性は40代からで、女性は70代から。それだけ、女性のほうがタフなのです。

どうしても寝る時間がなければ質を高めよう

睡眠負債を解消するには、睡眠の量と質を改善することが必要です。

まとまった睡眠時間をいま以上に確保できるようにするのがベストですが、生活環境を劇的に変えない限り、なかなか簡単ではないでしょう。現実的に量に関してできることは、昼寝や分割睡眠を活用して、少しでも睡眠量を増やすことぐらいでしょう。

そうであるなら、眠りの質を高めることです。量を増やせないなら、質を高めるしかありません。

質を高めるための最大のポイントは、最初のノンレム睡眠です。睡眠というのは、眠りにつくとまず脳も体も休息するノンレム睡眠に入り、その後、脳は活動しているけれど体は休息しているレム睡眠に移行していきます。これが、睡眠周期というものです。個人差こそありますが、1周期が70~110分くらいになります。そして、この周期を4~5回繰り返して目が覚めます。

ノンレム睡眠にはステージが3段階あり、入眠してステージ1から2へと深くなっていき、眠りについてから最初のノンレム睡眠ではステージ3の深い睡眠になります。ここで、ステージ3のレベルまでしっかり深く眠れるかが、睡眠の質に大きくかかわってきます。極論すると、最初のノンレム睡眠が浅ければ、質の高い睡眠を取ることはできません。

ノンレム睡眠を深めれば嫌な記憶が消える?

睡眠にはいくつもの役割がありますが、ノンレム睡眠の浅い状態のみでは、脳と体をある程度休ませることはできても、それ以外の、グロースホルモンを分泌したり、副交感神経を優位にしたり、脳の老廃物を除去したり、免疫力を活性化したりといった働きはスムーズにいかなくなります。

記憶を整理するのも睡眠の役割とされていますが、最近の研究では、最初の深いノンレム睡眠時に、新しい記憶の貯蔵装置である海馬から大脳皮質へ記憶情報が移動し、長期記憶として保存されるという報告があります。また、深いノンレム睡眠には、嫌な記憶を消去する役割があるとも言われています。これらの研究結果は、それだけノンレム睡眠の深さが重要だという証明でしょう。