飲み屋で酒が回った出稼ぎ労働者を口説いた
鶴見や川崎など地元の酒場、それも地方から働きに出てくる出稼ぎ労働者がやってきそうな飲み屋に一人で出かけて、それらしい集団を物色するのです。警戒されないよう、酒がある程度回って座が和んできたところで声を掛けます。
「やあ、盛り上がってますね。皆さんは地方から働きに来ているの?」
「岩手からね。この時期は農閑期だから、毎年みんなで来てるんだ」
「建築関係?」
「そう。今は、この近くのビルを建ててる現場ね」
「皆さんガタイがいいから、相当稼いでいるんだろうね」
といった具合に、どこから来たのか、今どんな現場で働いているのか、収入はどれくらいか、今の現場に不満はないか等々、根掘り葉掘り聞き出していきます。
そして、これはいけるなと判断したら、「もっといい働き口があるよ」と勧誘するのです。
「工場の仕事は雨風関係なくていいよ。工賃は建築関係に比べれば少し安いけど、仕事は安定しているし、残業代も付くし」
「へぇ、そりゃあよさそうだね。ただ、今いるところは急には辞められないからなぁ……」
今働き口がある人たちを引き抜くわけですから、なかなか簡単にはいきません。しかし一人でも勧誘できると、その人が属しているグループのメンバーを次々と芋づる式に引き抜けることもあります。また、同じ現場で働いている別のグループ──他県から集団で来ている人たちを紹介してくれることもありました。
一升瓶片手に、夜行列車に飛び乗った
最初に勧誘に成功したのは、秋田県男鹿市から来ているグループでした。男鹿といえば「なまはげ」で有名ですが、ハタハタ漁も盛んなところです。酒場で知り合ったのはハタハタ漁に携わっている漁師さんたちで、漁ができないオフシーズンに出稼ぎに来ているということでした。
では、漁ができないのは1年のうちどのくらいの期間か聞いてみたところ、何と12月、1月を除く10カ月間は出稼ぎに来られるというのです。こちらにしてみれば長く働いてもらえる大変な“戦力”になるということで、何としてもこの人たちをスカウトしたいと思いました。
話を聞いていくと、地元にリーダー格の親方がいて、出稼ぎに行きたいという人たちを差配していることがわかりました。善は急げでその晩、一升瓶の酒と肴を手に夜行列車に飛び乗り、男鹿に向かいました。