その理由は、まずタケダの社員が優れた人たちで、彼らをリスペクトしているからです。私は常にベストではありません。会社のことをすべて知っているわけでもありません。コミュニケーション部門、研究開発部門、製造部門と各分野に私より優れた人がいます。そうした人の意見を聞くことは、私の仕事である「明確な意思決定」をするうえで欠かせません。それが私のスタイルなのです。ときには、コンセンサスがない形で意思決定をすることもありますが、全体の5%程度にすぎません。
日本人独特の反論の言葉遣い
――社長就任から5年半が経ちます。日本の企業とりわけ組織や人について、どんな印象をお持ちですか。
日本の会社はほかの国とはかなり違うと感じます。ほかの国ではジョブホッピングをするため、企業間でのカルチャーの差はあまり浮き出てきませんが、日本ではもともと終身雇用がベースになっているので、会社ごとに独自のカルチャーを持っています。
もう1つは、日本の若い人が自分の意見をあまり言わないということです。目上の人に対しての敬意が強いため、意見が言いづらくチャレンジもできないという状況が往々にしてあります。日本では私に「あなたは間違っている」と直接言ってくる人はまずいません。「別のアイデアを見てはどうでしょう」という言い方が、同じ意味で使われますね。でもアメリカ人なら堂々と、「それ、間違っていますよ」と直接的に言ってきます。また日本の会議ではこちらから「どう思いますか?」と聞かなければ意見を言ってくれませんが、アメリカではこちらが尋ねなくても、勝手に意見を言います。
日本の人たちもそれぞれ意見を持っているはずですから、それを表明できたり質問できたりする環境が整えば、非常によい変化をもたらすだろうと思います。
――そうした特性も要因だと思いますが、日本人はグローバル企業のリーダーにはなりにくいイメージがあります。CEOはどのような人がグローバル企業のリーダーにふさわしいとお考えですか?
タケダに関して言えば、日本の会社であり、日本に様々な部門が揃っていますから、そのぶん、チャンスもオプションも豊富です。その点で日本の社員は恵まれています。そのうえで、日本人の社員がもし私の後継者になりたいとか、TETのメンバーになることを希望するのであれば、2つのことが必要です。1つは海外での経験を持つこと。これは大きなプラスとなります。もう1つは英語を話すこと。これは必須です。というのもTETのメンバーの国籍は11カ国に及び、それぞれが複数の国で働いた経験を持つ人たちだからです。自分のキャリアをプランニングする際には、こういったことを考える必要があるでしょう。