実は、このとき脳の中では「報酬系ネットワーク」が働き、喜びや好奇心に関係する神経伝達物質の「ドーパミン」が分泌されています。それが前頭前野まで到達すると、「やろう」という意欲がわいてくるのです。さらに面白いことに、ドーパミンが多量に分泌される状態のときは、通常容量が限られているワーキングメモリの容量が大きくなるともいわれています。ということは、仕事により集中しやすくなるでしょう。

ややこしい案件は午前中がベスト

ことほどさように前頭前野は仕事をするうえで大きな役割を担っているわけですが、前頭前野を活性化し、集中力を持続させるために、効果的なテクニックをいくつかご紹介します。

1つ目は、脳の働きの「タイムリミット」を知ることです。そもそもヒトをはじめとする動物は、体内時計に基づいて一日を活動しており、脳にも働きやすい時間帯と働きにくい時間帯があることが知られています。たとえば、昼過ぎの14~16時くらいには、眠くなり脳の働きが低下します。また、脳は朝起きてから生活の中で働き続けることから、最大限の機能を発揮するのにタイムリミットがあり、起きて13時間程度が経過すると、脳の機能は急激に低下することも知られています。6時の起床なら夜の19時過ぎ。それ以上の残業は非効率といえます。

タイムリミットの観点からいうと、集中すべき仕事、ややこしい案件、重要な意思決定など認知負荷の高いものは、脳が元気な午前中に行うのがベストです。一方、アイデアを出したいときは、夕方以降21時くらいまでが理想的です。それというのも、前頭前野が疲れ始めた頃がアイデアは出やすいといわれているからです。

そして、2つ目が「タイムプレッシャー」をかけることです。これは「ポモドーロ・テクニック」と呼ばれ、仕事や勉強などを25分間続けたら5分間休憩するという、30分単位でタスクを切り替える手法です。ポモドーロとはイタリア語で「トマト」を表し、トマト型のキッチンタイマーを使って時間を計ったからといわれています。体の疲れもそうですが、脳も小まめに休んだほうが疲れにくく集中しやすいので、1度試してみるとよいでしょう。

そのほか、集中力を途切れなくするには、五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)からの情報の刺激を遮断するのも効果的です。スマートフォンの電源を切って着信音などが鳴らないようにしたり、机の目につくところに気になるものを置かないようにする。要は気が散る情報をなるべく遮断するということです。認知負荷の観点でいうと、異質な情報が入ると集中力が途切れる原因になるからです。

脳のメカニズムを理解したうえ、こうしたテクニックも使いながら、前頭前野を最大限に働かせれば、仕事に集中でき、時間を浪費することもなくなっていくでしょう。

(構成=田之上 信)
関連記事
脳内科医が「電車では端の席を避けろ」という訳
長引く腰痛は「脳の働き低下」という科学的研究
会話が上手い人は「何でもグーグル検索」しない
「認知症を理解したつもり」だった専門医の反省
認知症患者を子供扱いすべきでない本当の理由