同じような話し相手にもかかわらず、会話が楽しいときと盛り上がらないときがある。なぜその差が生まれるのか? どうすれば中身のある話ができるのか? 気鋭の脳科学者が会話のメカニズムを明らかにする。

違う目的地に着いた「会話の達人」

世の中には楽しい会話ができる人と、話すとまわりをイラつかせてしまう人がいます。その差はどこにあるのでしょうか。会話でまわりをイラつかせるのは、脳の働きでいうと、共感の回路に原因があるかもしれません。脳には、相手の気持ちを推し量ったり気遣ったりする「心の理論(セオリー・オブ・マインド)」という働きがあります。会話が下手な人は、この共感の回路が発達していない可能性があります。

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相手に共感できない人は、その話にも耳を傾けません。これが相手をイライラさせる源になります。というのも、聞きベタは話しベタであり、聞き上手イコール話し上手であるからです。

僕が「会話の達人」と聞いてすぐに思い出す人物は、文化庁長官も務めた心理学者の河合隼雄さんです。河合さんはタクシーに乗ったとき、ただ相槌を打っているだけなのに、運転手さんがいつのまにか身の上話を始めて、まったく違う目的地に着いたことが何回もあったとおっしゃっていました。相手に関心を持って適切に相槌を打てば、それだけで相手を気持ち良くさせることができる。まさに会話の達人のなせるわざです。