認知症研究の第一人者が認知症になり、身をもって知ったことがある。医師の長谷川和夫氏は「認知症を発症しても突然、人が変わるわけではありません。『何もわからなくなってしまった人間』として、一括りにしないでいただきたい。一人の人間としてじっくり向き合ってほしいと思います」という——。
※本稿は、長谷川和夫・猪熊律子『ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
認知症で突然、人が変わるわけではない
ボクは認知症の臨床や研究を半世紀にわたって続けてきました。でも、自分が認知症になって初めてわかったことが、いくつもあります。まず何よりもいいたいのは、これは自分の経験からもはっきりしていますが、「連続している」ということです。
人間は、生まれたときからずっと連続して生きているわけですから、認知症になったからといって突然、人が変わるわけではありません。昨日まで生きてきた続きの自分がそこにいます。
それから、認知症は「固定されたものではない」ということです。普通のときとの連続性があります。ボクの場合、朝起きたときが、いちばん調子がよい。それがだいたい、午後1時ごろまで続きます。
午後1時を過ぎると、自分がどこにいるのか、何をしているのか、わからなくなってくる。だんだん疲れてきて、負荷がかかってくるわけです。それで、とんでもないことが起こったりします。
夕方から夜にかけては疲れているけれども、夜は食べることやお風呂に入ること、眠ることなど、決まっていることが多いから、何とかこなせます。そして眠って、翌日の朝になると、元どおり、頭がすっきりしている。