その際に重要なポイントになるのが、「認知負荷」です。これは認知心理学の用語ですが、前頭前野のワーキングメモリで処理する情報量の多寡を表しています。処理すべき情報量が多かったり、複雑で難解な情報でストレスを受けているときには認知の負荷が高い状態になります。そして、「厄介だ」「面倒くさい」などという心理が働いて集中力が低下し、作業効率が落ちてしまうのです。逆にシンプルですっきりした情報は認知の負荷が低いために受け入れやすく、作業に集中しやすくなります。したがって、仕事に集中して時間をムダなく使うためには、この認知負荷を低くすることが重要です。
マルチタスクは脳を消耗させる
そのための有効な方法の1つが、錯綜した仕事を整理して、タスクを「細分化」「見える化」し、それらに優先順位をつけて、一つずつ処理していくことです。なぜなら、細かく切り出され、その目的がはっきりと見えるタスクであれば、認知負荷が低くなって作業に集中しやすくなるからです。
その意味でも、複数の仕事を同時にこなすマルチタスクはお勧めできません。もともと脳はシングルタスクでしか働けない仕組みになっているからです。たとえば、Aの仕事に取り掛かりながらも、別なBやCの仕事のことが気になってしまうと、集中できなくなります。さらに、AからB、Cへと、休むことなく仕事を切り替えているつもりでも、脳のスイッチの切り替えを頻繁に行っているうちに、脳の働きが鈍って効率が悪くなっていきます。
また、仕事に集中するためには、多くの仕事を1人で抱え込まずに、部下や同僚に任せることも有効です。よくいわれる「仕事」と「作業」の違いですが、仕事は自分のやるべきもので、作業は人に任せてよいものと捉えましょう。この仕事と作業の区別を明確にすることで認知負荷も低くなり、自分のやるべき仕事に専念でき、集中力も持続するようになるでしょう。
その際に必要となるのが「価値判断」です。どのタスクが仕事で、どのタスクが作業なのかを判断しなければなりません。また、任せる相手として誰が適任なのかという判断も必要です。こうした価値判断も、前頭前野の機能です。そうした価値判断がうまくできているときは、前頭前野の働きも高まっています。
また、タスクを細分化していくと、時間管理もしやすくなるというメリットをもたらしてくれます。スケジュールに合わせてタスクを効率よく並べ替えることができるからです。そして、締め切りや納期などが明確になり、いまやるべきことがはっきりすると、仕事に対するモチベーションアップにもつながっていくでしょう。