「どういうことなんだ」

日本から来た営業担当は、あるディーラーを経営する中年のアメリカ人に向かって、声を荒らげた。すると、アメリカ人の答えはふるっていたのである。

「いや、ここでレガシィを並べたら、在庫になっているレオーネがますます売れなくなる。まず、レオーネを売ってから、レガシィを売ろうって思ってるのさ」

過剰在庫は自動車会社の生死にかかわる

アメリカの自動車ディーラーは日本のように専売店が主ではない。フォードやトヨタを売っているディーラーが隣接した敷地でスバルやマツダを売ることが多い。

そして、並べてある車は金を出せばその場で乗って帰ることができる。どこの会社の車であれ、売れる商品を持ってくる仕入れの力がディーラーの経営を左右する。

「レオーネより、出したばかりのレガシィを売ってくれないか」と頼んでも、「まずは在庫を片付けてからだ」と一蹴されてしまえば交渉する余地もないのである。

日本のように自動車会社からの指示がそのまま通用することはない。こうして、米国製にもかかわらず、新車レガシィの在庫は積みあがっていった。

ついには8万台もの車がSIAの工場敷地に並んだまま出荷を待つ事態にまでなってしまったのである。

車は外に置いておけば雨が降り、泥をかぶる。雨滴がレンズ効果となり、塗装も傷む。8万台をメンテナンスしながら、販売するのはコストもかかるし、大変な手間だ。長く置けば置くほど値引きもしなくてはならない。自動車の過剰在庫は自動車会社にとっては生死にかかわる問題だ。

「自動車運搬船が沈めば保険金が入る」

そして、さらに事態は悪化した。在庫車がずらっと並ぶ写真が自動車業界の専門紙『オートモーティブニュース』の1面に載ってしまったのである。そうなるとまず悪評が立つ。

買おうとしていた客はさらに値引きを要求するし、販売店は引き取りを嫌がるようになってくる。アメリカ駐在の富士重工社員にとって、アメリカ工場で作った新車レガシィは経営の足を引っ張る存在になってしまった。

富士重工のある担当者は「このまま売れなかったらどうしよう」と心配したあまり、眠れなくなり、毎晩、夜中になると日本からの自動車運搬船が沈む夢を見るようになった。それは彼にとって強い願望だった。なぜなら「船が沈めば保険金が入る」からだ。

それくらい、アメリカのSIAは在庫に悩んでいた。