トランプ政権のすべてを動員して日韓を説得

【手嶋】日韓が直に協議したのではない。トランプ政権が日韓双方に諮りながら取りまとめたのでした。アメリカは「仲裁役」ではなく、東アジアの「日米韓の三角同盟」の当事者として、GSOMIAの維持に動いたのです。トランプ政権の殺し文句は「協定を破棄すれば、中国や北朝鮮を利するだけだ」。エスパー国防長官、スティルウェル国務次官補などトランプ政権のすべてが動員されて、日韓の説得にあたりました。GSOMIAが単に機密情報の交換協定でなく、日米安保、日韓安保を補完する重要な役割を果たしていることが窺えます。

【佐藤】アメリカがここまで協定維持に真剣になったから、韓国としては譲歩する以外に選択肢がなかったのです。

文在寅大統領も、米韓同盟を事実上破棄する覚悟があれば別ですが。交渉の最終局面では、どうやって面子メンツを保つかが焦点でした。安倍政権が輸出規制を巡る「対話」には応じてもいいと軟化したため、これが落としどころとなりました。安倍政権としては「対話」をするだけですから、わずかに譲ったにすぎません。

日本が文在寅政権をねじ伏せたように見える構造

【手嶋】北朝鮮と中国の脅威を挙げて、当面は協定をなんとか維持したのですから、今後の対北交渉には少なからぬ影響を与えることになりそうです。トランプ大統領が、北の独裁者と恋に落ちて、米朝首脳会談を実現しながら、北朝鮮の非核化は少しも実現しないどころか、新鋭のミサイル開発・実験はどんどん進んでいます。米朝対話の推進役だったトランプ大統領とポンペオ国務長官が、協定維持の前面に姿を見せなかったのは、米朝対話の負の側面を物語っていると思います。

【佐藤】重要な指摘です。トランプ大統領とポンペオ国務長官がどこまで真剣にGSOMIAを維持しようとしていたのかがわからない。ただし、ペンタゴン(国防総省)と国務省の安全保障の専門家たちはこの協定をなんとしても維持しなくてはアメリカの国益が毀損きそんされると考えたことは間違いないと思います。

表面上、GSOMIAをめぐる危機は回避されたように見えますが、構造的には事態はいっそう深刻化していると思います。韓国人には今回の事態は日本がアメリカをうまく巻き込んで文在寅政権を力でねじ伏せたように見える。その結果、日本に対する韓国人の恨みの感情がいっそう蓄積されることになったと思います。