理不尽なクレームをつける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」をする人には、どんな特徴があるのか。公認心理師の柳川由美子さんは「定年退職した元エリートサラリーマンはカスハラをしやすい。そこには自身の満たされない感情を、自分より立場の弱い人にぶつけたい、という構図がある」という――。
日本人のビジネスマン
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大手企業を退職後、感情がコントロールできなくなった

私のカウンセリングを受けに来た60代の男性・Aさんの第一印象は、「穏やかで優しそうな人」でした。大手企業を定年退職後、体調が悪くなり、不眠に悩まされるようになったというAさん。人に対する恐怖や強い不安感が退職前からありました。職場で言いたいことが言えなくなっただけでなく、家庭でも言いたいことは言わずに我慢してきたそうです。

きっかけは10年以上前に会社で重要なプロジェクトを任されていた時、大きなトラブルがあり、責任を取る形でプロジェクトから外されたことでした。後で分かったのは、信じていた人からの裏切り行為があり、不本意な形で責任を負わされたということでした。Aさんにとって、プロジェクトには強い思い入れがあり、時間も費やしてきただけに、ショックは大きかったそうです。結局、その出来事のせいで意に沿わない部署に回されたため、定年延長はせず、逃げるように退職したということでした。

しかし、話を聞くうちにAさんの別の一面が見えてきました。「最近、感情をコントロールできなくなってきました。先日、買ったばかりの家電の調子が悪く、コールセンターに電話した時、かなり待たされたんです。応対したオペレーターの説明も要領を得ないのでイライラしてしまって。折り返し連絡すると言うので、“すぐに電話しろよ。他の客の電話は後回しにして私に最初に電話しろ”と怒鳴ってしまったんです」。その後も飲食店や病院でスタッフに腹が立ち、怒りを抑えられないことがあったそうです。

すぐに「でも自分は悪くない」という気持ちが強くなる

こうしたカスハラ(カスタマーハラスメント)をしてしまうという相談は他にもあります。例えば大学病院を予約していたが急患が入ったために担当医の診察が受けられなかったことに怒り、看護師に文句を言い続ける、といったものです。

ただ、本人がカウンセリングを受けているのなら、ハラスメントをしているという自覚があり、改善を望んでいるわけですから希望が持てます。しかし、実際は家族が困り果ててカウンセリングに来ることがほとんどです。家族はいつ感情を爆発させるか分からない本人と過ごすことで、萎縮したり、不安になったりしています。迷惑をかけた病院やお店などに謝りにいくことが続き、疲れてしまった家族が離れていくというケースも少なくありません。

カスハラをしたという自覚症状がある場合、時間が経って落ち着くと、激しく怒鳴ってしまったことに対する罪悪感を覚える人もいます。しかし、Aさんもそうでしたが、すぐに「でも自分は悪くないんだ」という気持ちが強くなるケースは多いです。そう思うことで、結局、自分で改善する力を失ってしまい、いつも同じことをくり返してしまいます。「改善するためにできることはないのか?」と自分の可能性を信じられなければ、変わることは難しいです。