優しい人が攻撃的になる「きっかけ」

カスハラをする人の根底にあるのは強い承認欲求です。自分より立場が弱い人を攻撃することで、その欲求を満たそうとします。相手のせいにして相手を下げることで、自分の力を誇示したい、という欲求を満たそうとするのです。自分が正しいということを過剰に主張することもあります。

心理学の理論の1つである「選択理論心理学」では、人には生存、愛・所属、力、自由、楽しみという5つの基本的欲求が必ずあると考えられています。その欲求の強さは人によって異なり、カスハラをしてしまう人は「力の欲求」が強い人といえるでしょう。

Aさんは大手企業で高い地位に就いていましたが、このように社会で重要な役割を担っていた人が、それを失ったことで「力の欲求」を満たそうとすることもあります。仕事を通じて得ていた達成感や自尊心がなくなり、自己価値を感じられなくなったことで、「自分は何者なのか」というアイデンティティが混乱してしまうのです。

もちろん、性格や社会的サポートの有無、その人の価値観や適応能力などによりますが、まわりに過度な要求をしたり、昔の様に権力を使いたくなったりすることがカスハラにつながることもあります。

また、自己効力感(自分の行動が期待通りの結果をもたらすという信念)が低い人も多いです。そのために相手をコントロールすることで自分を満たそうとします。

ベッドの上で頭を覆っている悲しい実業家
写真=iStock.com/Tzido
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人を見下すのは、自分を大きく見せたいから

こうした強い承認欲求や低い自己効力感が原因となるのはカスハラだけではありません。部下へのパワハラ、子どもへの暴力、言葉による虐待やコントロール、SNSでの誹謗中傷なども、自分より弱い相手、言い返せない相手に対して、自分の力を示したいという欲求を満たすために起こることが多いのです。

カスハラに限らず、心の問題を抱えている人に共通するのが、「I’m not OK(私はダメだ)」と自己否定してしまうことです。この状況が続くと「I’m not OK、You’re OK(あの人は優秀なのに、私はダメだ)」とネガティブになっていき、そのうち「I’m not OK、You’re not OK(私も世の中も全部ダメだ)」と感じるようになります。

カスハラは、一見「I’m OK、You’re not OK(私以外はみんなダメ)」と自分だけは肯定しているように見えますが、実は人を見下すのは自分を大きく見せたいという気持ちの表れです。人を許せないという気持ちの裏には、自身の心の余裕のなさやマイナスを隠したいという思いが隠れています。

先述した交流分析の考え方では、自分を肯定できなければ、相手を認めることもできません。まず自分を認めることができ、心にゆるみが生まれると、相手のゆるみも気にならなくなります。“I’m OK”が出せるようになると、“You’re OK”も出せるのです。