発展のカギは、他社に先んじた「共食い」現象

リクルートのこれまでの発展について検証していくと、同社の経営陣は、競合に先んじてセルフ・カニバリゼーションを行うと決意しているかのような印象を受ける。

同社が実験を試みる傾向は強まる一方だ。2015年までに、リクルートは1000人以上のソフトウェア技術者を雇った。彼らは200以上のウェブサイトと350以上のアプリの運営を行う。これらのサイトやアプリの顧客は、レストランや美容院、結婚式場、賃貸住宅などさまざまだ。

社内には多数のソフトウェア技術者がいるが、東京の本社の壁の外側には同社の最も重要な支援者がいる。それは何百万人もの中小企業経営者で、彼らがリクルートを日本でトップクラスのデジタルメディア企業に押し上げた。

そして、ここにとても重要な教訓がある。こうした大きな変化のどれもが、一夜にして起こったものではないということだ。少しずつステップを踏むことで、同社の境界線は徐々に外へと広がっていった。そうした変化がすべて一緒になることで、リクルートの中核となるミッションが再定義され、同社の軌道はよりよい方向へと修正されていった。

雑誌出版からプラットフォームのプロバイダーへ

従来からリクルートのメディアに広告を出していたのは、小規模な企業の経営者が中心だった。彼らはバックエンドの事務的な作業に苦労していた。美容院は、オンライン予約を始めればたくさんの予約が取れる可能性があった。

しかし、たいていの場合、美容師がオンラインの予約状況を紙のスケジュール表に手で書き写すことになる。電話で予約した顧客とのダブルブッキングを避けるためだ。

「美容師であれば、顧客の髪を切り、髪型をセットしたりして、顧客に時間を使いたいと思うだろう。カフェのオーナーであれば、おいしいコーヒーをいれることに自分の時間を使いたいと思うのではないか」と、リクルートテクノロジーズ社長〔当時〕の北村吉弘は思いを込めて話す。

「しかし、彼らにはそれ以外にもたくさんの仕事があり、本業に使える時間は非常に限られている。事務的な仕事にかかる時間を計算してみると、事業の成長のために使える時間はほんの少ししかないことがわかる」。

北村の主導の下、リクルートは2012年に、美容院の予約と顧客管理用のプラットフォーム「サロンボード」を立ち上げた。それを用いると、電話予約とインターネット予約の両方を一括して管理できる。サロンボードには自動応答という業務削減に役立つ機能も付いており、美容院の間ですぐに人気を集めるようになった。