それは「顧客のトラフィックが十分にあれば、粗利益率が紙の雑誌より低くても成功することができる」というものだ。つまり、オンライン上での取引数が多ければ、やがてはそれがある程度の利益に変わるということだ。

その後に行われた他のインターネットへの移行プロジェクトでは、リクルートは損失を出さなかった。それでも、長期的に成功するためには、規模だけではなく品質も重要になってくる。これが、リクルートがやがて見つけることになる、第二の黄金律だった。

栄光から転落した「マイスペース」の教え

フェイスブック以前にソーシャルネットワークの世界に君臨していたのは、マイスペースだった。2003年に創業したマイスペースは、バンドや写真家といったクリエイティブな人たちにファンが多く、2008年の時点では、全米トップのソーシャルネットワークとなっていた。

ニューズ・コーポレーションのルパート・マードックはマイスペースを5億8000万ドルで買収したが、同社は60億ドル程度の価値があるかもしれないと考えていた。そして、2007年中頃には、2億人のユーザーが集まることを期待していた。

マイスペースの栄光からの転落は衝撃的だった。2008年4月には、ユニークビジターの数が1カ月当たり4000万人のペースで減っていった。その原因をサイトの無秩序な設計だとする人もいたし、技術的なイノベーションの欠如が原因だとする人もいた。

しかし、大きな問題はその評判にあった。マイスペースには、有名になりたい人たちが肌もあらわにした不品行な写真を多数投稿し、下品なサイバースペースと化したのだ。質の高いユーザーたちは、大挙して安全な空間であるフェイスブックへと逃げていった。品質は規模と同様に重要なのである。

顧客グループに合わせた品質保持

リクルートはこの点を十分に理解していた。同社の旅行事業「じゃらん」を例に考えてみよう。じゃらんは、ホテルや温泉旅館などの広告雑誌としてスタートした。しかし「じゃらんnet」が予約用のウェブサイトとして立ち上がったとき、同サイトは旅行代理店と競合する存在となった。

ホテルや旅館と旅行者とのあいだを仲介する立場となった以上、雑誌のときのように、ホテルのよい点ばかりを強調するわけにはいかなくなった。信頼できるアドバイザーとしての地位を確立するため、ユーザーによる正直なレビューも掲載する必要が出てきたのだ。

ここからわかるのは、顧客グループによって品質の定義は変わってくるということだ。サービスがオンラインに移行したとき、価値提案も変化した。品質の定義は進化したのだ。