その翌年、北村は「Airレジ」の立ち上げを発表した。Airレジはスマートフォンやタブレットを利用したPOSレジで、サロンボードと同様のクラウドベースのデータ管理システムを用いている(当初はレストランのオーナー向けだった)。

「なぜリクルートがやるのか」をいつも考える理由

エアレジの普及を促すために、リクルートは1000人の営業担当者に、日本全国で4万台のタブレットを無料レンタルで配布させた。続いて、2014年には「Airウェイト」を発表。これは店舗の順番待ちを管理するシステムで、顧客が自分のスマートフォンを使って、バーチャルに列に並べるようにするものだ。

さらに2015年には「Airペイメント」を発表〔現在のAirペイ〕。これは中小企業の頭痛の種である決済処理や現金管理の問題を解決するサービスだ。

リクルートはいくつものプラットフォームを用いて、個人の事業では実現できないような機能に投資することができた。それによって、顧客の使用感は向上し、同社をさらに競合から引き離した。

「『なぜリクルートがやるのか』をいつも考える。当社だからこそできることがあるだろうかと問う」。北村と長年共に仕事をしてきた淺野健は言う。「それがなければ、他のプラットフォーマーのプラグインにやられてしまう。だから『他のどの企業よりもリクルートがうまくできるか』を問わなければならない」。

同社がいかにも利益の出そうなサービスを追求しないのはそのためだ。淺野は言う。「簡単に稼げることを狙ったものは、否定しなければならない。われわれは、将来その事業がどのくらいの規模になるかを知る必要がある。短期的な利益ではなく、プラットフォーム全体でユーザーがどの程度になり得るかが重要だ」。

技術チームが内向きでいられなくなった

これによって、技術チームにとてつもないプレッシャーがかかる。どんなに内向的なソフトウェア・プログラマーでも、プログラミングだけをやっているわけにはいかなくなる。顧客を訪問し、その事業の実際をよく知る必要が出てくるのだ。

リクルートのエンジニアは営業スタッフとともに日常的に外に出て、整形外科から高級レストランまで、幅広い事業を観察する。その目標は、たとえば、便利な予約プロセスに共通する条件を探すことなどだ。

もう1つの目標は試作品を速くつくることだ。テストを実施できるように、すばやくまとめ上げる。リクルートでは、試作品は通常、顧客のニーズを60%満たす程度にする。核となるサービスが評価されて初めて、エンジニアたちはほかにどんな機能を加えるべきかを検討する。