常識に囚われるとニーズが見えなくなる

常識を破ってヒット商品になった事例は、枚挙にいとまがない。そのヒントは、現場にある。

食品用機械メーカー・前川製作所の社員が鶏肉加工工場に商品を納めに行くと、手作業で鶏モモ肉の骨を外していた。加工業者は「この業界は、昔から手で骨を取り出すのが常識。それ以外の方法があると考えること自体、馬鹿げている」と思い込んでいた。

「非効率だ」と思った前川製作所の社員は、自動で脱骨する機械の開発に取り組んだ。

出来上がった機械を見せられた加工業者は、「欲しかったのはコレだよ!」。

自動で脱骨するという潜在的なニーズはあったが、顧客の加工業者は常識に囚われていて、見えていなかったのだ。こうして開発した商品は「トリダス」と名付けられ、ヒット商品になった。

「ケアは面倒」のタブーに切り込んだマンダム

男性向け化粧品メーカーのマンダムは、今から十数年前、女性向け化粧品に進出を図っていた。その突破口も、常識を疑うことだった。

女性にとって毎晩のメイク落としはとても手間がかかる。洗顔料で顔をこすって水で洗い流す。この苦行は男性にはなかなかわからない。しかし、「化粧落としは時間をかけて丁寧に」が当時の化粧品業界の常識だった。マンダムはこの常識に挑戦した。

2006年、マンダムはコットンに液体を染み込ませて化粧を拭き取るだけのメイク落とし「ビフェスタ」を発売した。キャッチコピーは「疲れてすぐ寝たい」。

多忙な女性から支持され、他社からも手軽にメイクを落とす商品が発売されるようになった。顧客である女性たちにとって「メイク落としに手間をかけたくない」は常識だったが、化粧品会社は「化粧は手間をかけて丁寧に」と言い続けてきた。「ケアが面倒」と言い切るのはタブーであり、非常識だったのだ。

マンダムはこの常識に挑戦し、ヒット商品を生み出したのである。

確かに、常識を理解することも大切だ。しかし、常識に違和感を覚えたら、それは大きなチャンスだ。「この常識は間違いでは」と感じた直感を、ロジカルに考え抜いた先にチャンスがある。

タブーや非常識を常識に変えることで、ヒット商品は生まれるのだ。

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