菓子製造・販売のギンビスが好調だ。売り上げは前年比二桁増で、中でも主力良品の「たべっ子どうぶつ」が人気だという。46種類の動物のフォルムに英単語が書かれているのが特徴だが、なぜこんなに種類が多いのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。
ギンビス本社に並ぶ「たべっ子どうぶつ」のぬいぐるみ
撮影=プレジデントオンライン編集部
ギンビス本社に並ぶ「たべっ子どうぶつ」のぬいぐるみ

クリエイティビティだけではヒット商品は生まれない

お菓子のシャトレーゼ、ガリガリ君の赤城乳業、ミートボールの石井食品、タイカレーのヤマモリなどわたしは各社がそれぞれのヒット商品を開発する経緯を調べた。

当初、わたしはヒット商品を生むのは「アイデアと開発力」であり、加えて、ヒットを確定させるのは広報と宣伝の力だと想定していた。少数の開発チームが優秀でさえあればヒット商品は出ると思い込んでいた。企画こそがヒット商品の母体だから、チームの企画力、クリエイティビティを鍛えればいいのではないか……。

しかし、結論からいえば、そんなことはなかった。ヒット商品を生むのも、ヒットを継続させるのもすべては経営の力だ。そして商品を売ろうとする情熱だ。経営がしっかりしていない会社はたとえヒット商品を生みだしたとしても、進化させたり、成長させたりすることはできない。

いちばん大事なのは経営者が何を価値として会社を経営しているかにある。

食に関係する会社はどこの会社も表向きは「おいしいものを作りたい」という。

むろん間違ってはいないけれど、陳腐だ。「当社はおいしくないものを作ります」と主張する会社はありえないのだから、何の主張もないのと同じだ。

経営力と情熱、そして製造技術がヒット商品を生む。クリエイティビティは最後にあればいい。

クリエイティビティ、アイデア、広報、宣伝は経営力と情熱、製造技術があってこそのもの。開発チームだけを強化してもヒット商品は生まれない。

コロナ禍前から順調に売り上げを伸ばし…

では、たべっ子どうぶつを筆頭に、アスパラガス、しみチョココーン、GINZA RUSKなど、いくつものヒット商品、ロングセラー商品を持つ製菓会社ギンビスの経営力、情熱はどういったものだろうか。

ギンビスは戦前の1930年に墨田区の錦糸町でスタートした老舗の製菓メーカーだ。売り上げは公表していない。だが、コロナ禍にかかわらず、今年1月~10月は前年比で二桁増だという。上場できるくらいの売り上げを持つ中堅企業だ。

本社は日本橋の浜町にある。創業時の社名は「宮本製菓」で創業者は宮本芳郎。1945年に「銀座ベーカリー」という名称に変更し、74年に「ギンビス」になった。ギンビスとは銀座のビスケットという意味である。

さて、同社のヒット商品であり、ロングセラー商品のビスケット「たべっ子どうぶつ」が出たのは1978年。ヒット商品で、スティックタイプのビスケット、アスパラガスが発売された10年後のことだった。

たべっ子どうぶつ
撮影=プレジデントオンライン編集部

ただ、たべっ子どうぶつは発売直後から人気が出たわけではない。

売れなかった原因のひとつはパッケージの色がピンクだったことにある。