ヒットさせるには時間がかかることを知っていた
コンビニに行ってみればわかるけれど、お菓子やスナックのパッケージ色は黄色、茶色、オレンジといった暖色系がほとんど。辛さを強調したものであれば赤のパッケージになっている。つまり、お菓子やスナックのパッケージの色はだいたい決まっている。
ところが、子ども向けのビスケット「たべっ子どうぶつ」は鮮烈なピンクだ。ピンク色のパッケージといえばお菓子より女性用アンダーウェアなどを思い起こさせる。ピンク色はかなり大胆な挑戦で、親たちは当初、困惑し、敬遠したのである。
開発したのは同社の創業者、宮本芳郎だ。彼は第1のヒット商品、アスパラガスビスケットの発売に際しても、形、味、ネーミングとすべてユニークにしたため、ヒットするまで時間がかかった。
そして、その時の体験があったから、たべっ子どうぶつがすぐに売れなくても、それほど動揺はなかったようだ。そうして彼の読みは当たり、1年ほどたつと、たべっ子どうぶつはCMや口コミで市場に浸透していったのである。
広報の吉村萌子さんは開発の経緯についてこう教えてくれた。
「経緯は2つあります。1つはたべっ子どうぶつのルーツになる商品があって、それは『動物四十七士』(1969年発売)という厚焼きのビスケットでした。2022年3月に販売終了になりましたが、たべっ子どうぶつはこれを発展させたものなんです」
たべっ子どうぶつはなぜ「46種類」なのか?
SNSでは、「四十七士」は赤穂浪士の47人から着想を得たのではないかという指摘があるが、吉村さんによると、50年以上前に作られたものだから諸説あるそうだ。
「創業者の宮本芳郎は大の動物好きでした。都内で子熊、犬、金魚などさまざまな動物を飼っていたのです。動物が大好きだから、動物四十七士、たべっ子どうぶつを作ったんですね」
動物をテーマにしたビスケットは動物四十七士、たべっ子どうぶつだけではない。普通のビスケットに動物の名前を印字して焼いたものはある。だが、動物の形を模したビスケットは珍しかった。動物の形に整形して焼くことに技術が必要だったのである。普通のビスケットが円盤形になっているのは箱を揺らしても壊れにくい形だからだ。
一方、たべっ子どうぶつを1枚ずつ取り出して見てみると、細部まで作りこんである。単純な形ではない。馬と牛ではデザインが異なっているし、牛の角まで再現してある。そして、パッケージを揺らしても、牛の角が折れないようなデザインになっている。作りこまれていて、しかも、壊れにくい。子ども向けのビスケットだけれど、ギンビスの技術が詰まった商品だ。