成人の場合、たとえ室内が劣悪な環境でも、本人が普段以上の努力をすると作業成績の低下が認められないことがあるが、その代償として「脳疲労に陥る」というから、気をつけたい。

また、換気以外にも空気の質を保つためには、室内の清掃、換気口やエアコンのフィルターなどの手入れが大切だ。デンマーク工科大学が行った研究で、室内のラックに20年使用したカーペットを持ち込むと、タイピストの作業能力が著しく低下したという報告がある。カーペットはタイピストからは見えない位置に置かれたものの、空気の汚染が生産性に影響したと分析されている。

同じく同大の別の研究で新品の換気フィルターで外気量を増やすと知的作業効率が6%アップするが、古いフィルターでは8%も低下するという報告がある。

仕事をする部屋の“空気の新鮮さ”を意識したい。

室温は脳神経の質に影響を与える

たとえば室温が20度以上とそれ以下では、どちらが「頭が働く」と思うだろうか。もし寒さに耐えて仕事をするほうが「冴えるはず」と思うならそれは大きな勘違いだ。さまざまな研究から冬場の室内は暖かくしたほうが、心身の健康や作業効率にプラスになることがわかっている。

村上氏らの研究によると、子供たちの学習効率は年間を通して25度付近にピークがあると認められており、冬季では室温を22度から23度へ1度上昇させることで学習効率は10.2%、23度から24度への上昇で4.7%向上する結果となっている。ちなみに東京の学習塾において、暖房22度の室温設定条件から23度の条件に1度改善することによるコスト増は、受講生1人あたり年額約2600円と試算されている。

大人の場合は「自宅を暖かく」することが冬場の質のいい睡眠につながるなど、心身への良い影響がある。

WHOは18年11月、住宅と健康に関する新しいガイドラインを発表し、その中で冬の室内温度は「18度以上」(高齢者や子供はさらに暖かく)を強く勧告している。慶應義塾大学伊香賀教授らの研究では「室内が暖かいことで脳神経を“若く”保てる」こともわかった。

「40代から80代までの男女を調査した研究で、冬季の自宅居間の温度が暖かい群(15度以上)は寒い群(10度前後)と比べて脳神経が若くなっています。1度で2歳、5度で10歳の違いが出ています」(伊香賀氏)

自宅内は18度以上を目指すといいだろう。